NHK大河ドラマが「べらぼう」なら、こちとらは「弥次喜多の東海道五十三次の都道府県づくし」とくらぁ
赤穂浪士と都道府県は四十七
弥次さん「2025年の新年1月5日(日)からNHK大河ドラマ『べらぼう』が始まるってか?」
喜多さん「このべらぼう(箆棒)め、おいら、江戸っ子だい! それぐらいのこたァ、とうの昔に知ってらい!」
弥次さん「本屋の蔦重こと蔦屋重三郎が主人公ってぇいうぞ」
喜多さん「べらぼうめ、こちとらは、そんなこと、先刻承知の助だ」
弥次さん「なら尋ねる。城島明彦の『江戸の仕掛人 蔦屋重三郎』てぇ本は知ってるか、読んでいるのか」
喜多さん「……」
弥次さん「どうした、沈黙は金玉か」
喜多さん「正月早々、下品なことを抜かすでにゃあ」
弥次さん「読んだのか、読まねえのか、どっちだ。答えてみやがれ」
喜多さん「(蚊の鳴くような声で)そんな本、知らねぇ。読んでもねぇ」
天上から突然の声「おいおい」
弥次さん・喜多さん「だ、誰だ?」
天井の声「この世とあの世を往き来している箆棒之介(べらぼうのすけ)だ! またの名を城島明彦という!
弥次さん・喜多さん「べらぼうめ! 本の宣伝に迷い出たな、この妖怪変態」
天上の声「そんなこと云わねぇで、頼むから読んでちょうだい! ピアノ売ってちょうだい!」
弥次さん・喜多さん「いい加減にさらしなそば(更級蕎麦)!」
というわけで、昨年11月に発売された『江戸の仕掛人 蔦屋重三郎』を書いた城島明彦の迎春第2弾の「都道府県づくし」は、蔦重の本屋に居候していたこともある十返舎一九の『東海道中膝栗毛』にあやかった創作落語風の、題して「都道府県づくし 弥次さん喜多さんの東海道五十三次の巻」をお届けします。
といっても、平成17年に本ブログで発表したもののリバイバルでございます。
1都1道2府43県を学ぶのは、小学校何年生のときでしょうか。大人になっても、すらすらと何分で全都道府県をいえますかな。
北海道 青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島 茨城 栃木 群馬 埼玉 千葉 東京 神奈川 新潟 富山 石川 福井 山梨 長野 岐阜 静岡 愛知 三重 滋賀 京都 大阪 兵庫 奈良 和歌山 鳥取 島根 岡山 広島 山口 徳島 香川 愛媛 高知 福岡 佐賀 長崎 熊本 大分 宮崎 鹿児島 沖縄
では、始まり、始まり~い!
都道府県づくし「弥次さん・喜多さんの東海道五十三次の巻」
時は元禄15年12月14日、世間じゃ赤穂浪士47人の討ち入りの日として知られるその日の昼間のことでございました。
喜多さんこと喜多八の住む長屋をちょいと覗いた弥次さんこと弥次郎兵衛、いつものように勝手に留守宅に上がり込んで、帰りを待っておりますてぇと、ドスンと戸にぶつかる大きな音。
「あっ、来た! 帰ってきた」(秋田)
と、弥次さんが叫んだ途端、
「いててっ」
あわて者の喜多さん、戸に手を挟んでしまいましたな。
「おお、痛かったが、まあ、よいわ、手は無事じゃ」(大分/岩手)
と、昼間から深酔いして、ふらふらの喜多さんを見て、弥次さんは
「めでたい奴だ」
天を仰ぎ、ふんと鼻でせせら笑ったケセラセラ。(岐阜)
「誰かと思えば、弥次さんじゃねえか。驚かすなよ」
「うひょう、ごめんごめん」(兵庫)
「ごめんですむなら、奉行所いらぬ」
と喜多さん、偉そうにいって、土間へ上がろうとして、つんのめり、バタンと倒れましたな。
「大丈夫か」
と駆け寄る弥次さんに、喜多さん、にっこり笑って、
「見たか。若、やまい(病)に倒れるの図だ」(和歌山)
「誰が若だ、若様だ。馬鹿面(づら)しやがって。何だい、着ている呉服、おかしいぞ」(福岡)
どういうわけか、喜多さん、改まった裃(かみしも)姿でございます。
「なに抜かす。新調したてだ。披露しま装束、この呉服、いくらだと思ってやがる。この紋所が目に入らぬか」(広島/福井)
「知る紋か」
と弥次さんが駄洒落で返すと、喜多さん、ひょいと裾をまくって、
「おひけえなすって。こちとら、名は喜多八、姓は鼻水。おお、逆さまだ。名が先になっちまった。して、弥次殿のご要件は?」(大阪/長崎)
「疲れる野郎だ。ふたり仲良く並んで、東海道を都まで旅しようって誘ったのは、てめえの方じゃねえか」(奈良)
「さあ、どうかいのう」
「駄洒落とばしてる場合じゃねぇ。東海道は五十三次。品川、川崎、神奈川、保土ヶ谷、戸塚、藤沢、平塚、大磯、小田原、箱根、三島、沼津、原、吉原、蒲原(かんばら)、由比、興津、江尻、府中、鞠子(まりこ)、岡部、藤枝、島田、金谷、日坂(にっさか)、掛川とくらぁ。これで二十六宿。まだ半分だ。そこから先は、袋井、見付、浜松、舞坂、新居、白須賀、二川、吉田、御油(ごゆ)、赤坂、藤川、岡崎、池鯉鮒 (ちりふ)、鳴海、宮 (熱田)と来て、七里の渡しで桑名へ渡り、四日市、石薬師、庄野、亀山、関、坂ノ下、土山、水口、石部、草津、大津。これで五十三の宿、そして京都着だ」
と右京、左京を巡る旅へと喜多さんを急(せ)かしたのですな。
ところが、喜多さん、ちっとも聞いちゃいませんで、トロンとした目で、わけのわからないことを口走りましたな。
「その指図(さしず)、おかしいぞ。熊もっと探せだと? おととい来きやがれ」(静岡/熊本)
「おっとっと、利口じゃねえな、おめえって奴は、底抜けの間抜けだ」(鳥取)
「べらぼうめ。旅の安全祈願のついでに、イチかわバチかの大勝負と、おみくじを引いたのさ」(石川)
「それがどうした」
「聞いて驚け、見て驚け。遠山の金さんなら『背中の桜吹雪が見えねえか』と啖呵をきる場面だ」(富山)
といいつつ、喜多さん、手に握りしめたおみくじを見せましたな。
「ふん、いつも貧乏くじばっかり引いているてめえなんぞ、どうせ凶と決まってる」
「なに抜かす。これを見やがれ、大吉だ。この際、たまたま運に恵まれ、得しましたとさ、チャンチャン」(埼玉/徳島)
「だったら、ケチがつかねえように、ふところの奥深くにしまっておけ。さあ、荷物を肩にかついだら、出発だ」
「やけに重いな。あ、重(おも)りでも入れやがったか」(青森)
――そんな珍妙なやり取りがあって、弥次さん・喜多さんの凸凹コンビは、あいにくの雨の中、日本橋を振り出しに今日という日の旅立ちと相成ったのでございます。(京都)
ところが、大磯を過ぎたあたりで喜多さんの足がつり、駕籠(かご)に乗る羽目になったものの、小田原で何とか 元に戻って、また歩き始めたのはよかったが、しばらく行くと、今度は大騒ぎでございます。
「大吉のおみくじがない。さっきの駕籠だ、駕籠、しまった、置き忘れた」(鹿児島)
箱根にさしかかるあたりで、茶屋の娘が美しい声で呼び込みをしております。
「そこの色男のお二人さん。幸先の良い福シューマイ、おひとつどうです」(福島)
喜多さん、大喜びだ。
「色男だってよ。雨は一向に止まなし、腹もすいたぞ」(山梨)
「しかたねえ。ここらでちょいと一休みするか」(滋賀)
食事が運ばれてくるのを待つ間、弥次さん、ご自慢の南蛮渡来の望遠鏡を取り出しますてぇと、喜多さんに勧めましたな。
「よく見えるだろう」(三重)
「市場(いちば)があるぞ。温泉まんじゅうを売っている」(千葉)
「見るのは、そっちじゃない、こっちだ」(高知)
「山がたくさんあるな」(山形)
「よく探して見ィ、山羊(やぎ)がおるだろう」(佐賀/宮城)
「山羊はいねえが、山羊ヒゲを生やした人相の悪い奴らがこっちへやってくる。相撲取りのようなでかい腹、気になる。かお、加山雄三に似ている奴もいるぞ」(茨城/岡山)
弥次さんは、気もそぞろ。
「あのゴロツキどもに目をつけられたと、大変だ。望遠鏡をしまわねえか。さっさと、ほかへ移動しようじゃねえか。」(島根/北海道)
三島に参りますてぇと、宿場には脂粉(しふん)の匂いが漂い、あっちの宿、こっちの宿から客引きの声。
ご機嫌いかが、わら(笑)う女郎衆の甘い誘いの声がする。(香川)
弥次さんも喜多さんも、鼻の下が伸びっぱなしでございます。
「おや、間口が広い店だな。見や、咲き誇っているじゃないか。いずれがアヤメ、カキツバタ。あの姐さん、器量ばつぐん、まいった、まいった。あいつに決めた」(山口/宮崎/群馬/愛知)
と弥次さんが相好を崩せば、喜多さんも負けじとばかりに、
「おいらは、あっちの娘だ。いながの生まれにしちゃあ、上等だ。知恵、秘めた笑顔がとても美しい。アイラブユーと、ちぎり交わしてぇ」(長野/愛媛/栃木)
「目は確かか。あれはどうかな、蛾は蝶ではないぞ。醜女(しこめ)だ」(神奈川)
結局、三島は素通りし、それから幾十里。喜多さん、柄にもなく、芭蕉の家を見ようと言い出して、東海道を外れて寄り道し、明くる日に伊賀、発(た)ったとか。(新潟)
「おい。起きろ! いつまで寝てんだ。そろそろ起きな、わら(笑)えば福もやってくる」(沖縄)
喜多さん、体を揺さぶられて、はっと目を覚まし、
「なんだ、夢か。てぇことは、おみくじも夢だったのか」
「寝ぼけ面しやがって。さあ、もうすぐ出発だ!」
というわけで、野次さん・喜多さんは、東海道五十三次の旅に出たのでありました。めでたし、めでたし。
おあとがよろしいようで、これにておしまいでございます。
(城島明彦)
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