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2025/01/06

「吉原は炎上すれば全焼」が常識。そのわけをNHK「べらぼう」(第1回)は説明してほしかった

「吉原と芝居町は、江戸の二大悪所」とされたが、どっこい、この2つを欠いちゃあ、「江戸文化」は成り立たなかった。

 NHK大河ドラマ「べらぼう」の第1回は、のっけから蔦重が生まれ育った〝幕府公認の色町〟吉原の大火でから始めて、視聴者の度肝を抜いた。

 実にうまい設定だった。

 というのも、「火事と喧嘩は江戸の華」などといわれ、江戸をシンボリックに表現するのに、この2つは最適だからだ。

 

 吉原が炎上する場面は迫力があったが、時代劇ではしばしばお目にかかる江戸火災現場の名物の火消しの姿がどこにもなかったことに気づいた視聴率は、どれくらいいたろうか。

 半鐘の音は鳴り響くが、まといを持って、屋根の上で纏(まとい)を振ったり、類焼を防ごうとして燃える家を壊す火消しの姿がどこにもなかった。

 なぜか?

 

「吉原の火事には火消しは出動せず、燃えるに任せて放置する決まりだったからだ」(拙著『江戸の仕掛人 蔦屋重三郎』の「吉原炎上で移転、仮宅営業で大儲け」より)

 NHK大河では、このことをナレーションか、誰かのセリフでいわせてほしかった。

 吉原が火事になったら全焼を覚悟しなければならなかったのだ。この先も吉原の火事は頻繁に起こるので、そこでは一言、説明しておいた方がよい。

 

幕末までに21回炎上。うち19回も全焼した吉原

 吉原炎上は、後年に編まれた史料『新吉原史考』によれば、幕末までに21回もあって、うち19回が全焼。焼け出された女郎屋は、幕府の決めた「仮宅」と呼ぶ江戸の別の町中へ移って、営業した。

 吉原は、周囲を田圃に囲まれた江戸のはずれにあった。

 出入り口は大門(おおもん)と呼ぶどでかい門だけで、色町の周囲は女郎たちの脱走防止のための高い塀〝お歯黒どぶ〟と呼ぶ深い堀に囲まれた〝陸の孤島〟だった。

 

「べらぼう」では、仮宅にまつわる出来事は、おそらく、のちのちの〝おいしいお話〟として取っておいたようで、「1年後に再開した」とナレーションで告げていた。

 今回の「べらぼう」の開き直った演出のうまいところは、この手の〝時間差攻撃の妙〟だと思う。

 ポンポンと場面転換し、日月年転換や時代転換をやっているので、テンポがいい。

 もう少し詳しく知りたいと思う場面もなくはないが、2025年という21世紀の第一四半期の終わりを迎えたスピーディーな今の時代には合っている。

 いってみれば、〝ちゃきちゃきの江戸っ子風のドラマ〟となっている。

 

 吉原炎上の回数には諸説あるが、これが一番信用できる。なんてったって江戸の男たちのアイドルが暮らしていた吉原の地元「東京都台東区役所編」だからだ。

 今なら写真があるが、当時はそんな便利なものはないから、だったら、そのアイドルたちを浮世絵師に描かせて売ってやろうと考えても、何の不思議もない。

 しかし、そう簡単に握手はさせないし、会ってもくれない。お高くとまっている花魁に会うには、複雑で金のかかる手順を踏まねばならない。だから、貧乏人は通えない。

 全国の田舎から売られてきた女郎が、方言でしゃべっては、何をいっているのかわけがわからん、というわけで、

 「わちきは、いやでありんす」というような珍妙な〝吉原標準語〟を山ほどこしらえたのでやんす。

 

吉原は、蔦重が子どもの頃から慣れ親しんだ〝わが家の庭〟も同然

 普通の江戸っ子にとっては陸の孤島の吉原でも、そこで生まれ育った蔦重にとっては〝遊び場〟にした〝わが家の庭〟のようなもの。

 どこの遊郭にどんな器量の女郎がいて、どこの出身であるとか、どういう経緯で吉原に売られてきたとか、健康状態はどうかといったことは、子どもの頃からよく知っていた。

 そこが、他の版元と大きく違う点で、蔦重の強みだった。

 「べらぼう」第1回では、華やかな吉原の奥の方には、安い値段で体を売る女郎がいる一角もあったということを、わざとらしい演出もあったにしろ、うまく表現していた。

 吉原には、そういうがあったからこそ、戯作の主要テーマになりえたという言い方もできるのである。

 

吉原で培われた蔦重の目のつけどころ

 蔦重が最初に手掛けたのは『吉原細見』と呼ぶ「吉原のガイドブック」だったという点も、納得がいくというものだ。

 蔦重が、絵師たちと組んで吉原のアイドルたちを浮世絵にして売る商売へと突き進み、吉原を舞台にした小説(戯作)を手次々と掛ける版元になるのは理の当然、自然の流れといえた。

 江戸の仕掛人 蔦屋重三郎 発売中でありんす

(城島明彦) 

 

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