コロナ禍が突きつける「生と死は隣り合わせ」というテーマは「葉隠武士道」に通じる
日本は「予防薬開発」で勝てないなら、「忍耐力」で世界一になるしかない
改めていう必要もないが、人類は今、コロナ禍に見舞われ、民族や国を問わず、「生と死が隣り合わせ」という非情な現実を突きつけられている。
若い者は体力があるから症状が出ず、自分が罹患していると知らずに菌をまき散らし、昨日まで元気だった者がいきなり陽性患者となって入院し、体力のない老人などは、あっという間にあの世へ送られる。こんな状況は恐怖以外の何物でもない。当初、志村けんや岡江久美子の急死は「不幸な特例」のように受け取る向きもあったが、武漢での発生から一年が過ぎた今、そんな風に「他人事(ひとごと)」と受け取る日本人は激減したものの、「陽性者ゼロになる日」は、いつのことやら予測が立たない。
近代医学が進歩した昨今、人類がこんな恐ろしい目に遭遇した経験は初めてだ。
大量死といえば、普通、「戦争」が頭に浮かぶ。日本も、大東亜戦争(太平洋戦争)では「赤紙」(召集令状)一つで戦地へ送り込まれ、有無を言わさず、死と向き合う日々を強要された。南方の戦地で、ジャングルを行軍中にマラリアに罹患して死亡し、そのまま放置された兵隊も大勢いた。
私は戦後生まれだが、母の長姉の夫だった人は、台湾へ向かう輸送船に機関長として乗り込み、輸送途中で米機の爆撃を受けて沈没、生死不明となり、遺骨すら遺族に戻ってこなかった。私の母の長兄は、広島の軍施設にいるときに米軍の原爆投下を受け、数メートル吹っ飛ばされたといっていたが、死ぬことはなかった。しかし、その影響は後日あらわれ、がんで死去した。別れた妻の父は、陸軍中野学校出だったが、やはり被爆、原爆手帳をもらっていた。だが、のちにがんで死去した。
戦後の日本は平和で、誰も戦争で死ぬと考える人は誰もいなくなった。そういう日本人に「死の恐怖」を突きつけたのが、今回のコロナだ。
日本人には他民族にはまねのできない忍耐力が備わっている。そのことを証明して見せたのが、戦争中の日本人だった。苦しい生活に耐えに耐えた。その忍耐力は終戦後、「高度成長」を実現する勤労意欲rとしてプラスの方向に爆発した。
今の日本の平和と繁栄は、耐えに耐えながら戦争で死んでいった人たち、耐えに耐えて働きまくって戦後の日本を急成長させた人たちのおかげだ。
戦後75年の今、コロナが蔓延し、「三度目の耐える時代」に突入している。
形こそ違え、逆境にある今、日本人の忍耐力の強さを世界に示さなければならない。
不幸にして日本は、コロナ予防薬・治療薬の開発では米英独に後れを取り、技術立国として世界にその名をとどろかせなかった。
ならば、「忍耐力で世界一」となり、「コロナ罹患ゼロ達成世界一」を実現するしかない。
東京五輪開催か否かの問題も、そういう視点からも考える必要がある。
外出を控えなければならないときは、家でじっとして本でも読んで、
「これからの人生、いかに生きるべきか」
について考えてはいかがか。それには、かの三島由紀夫が「私の一冊」と断言した『葉隠』が一番だ。
『葉隠』は「武士道は死ぬことと見つけたり」で有名で、「生と死」を考えるには格好の素材である。
一方、『葉隠』は「肥前論語」とか「鍋島論語」とも称されるように、「人生いかに生きるべきか」という教訓書でもある。
内容の一部を紹介。
▼くどい話は裏を疑え どうということのない話を念入りに詳しく語る人には、多分、その裏に何かいいたいことがあるはずだ。それを誤魔化して隠すために、何となく、くどくどしく語るのだ。それは、聞いていると、胸に疑念がわいてくる。(聞書第二 九十九)
▼今の世は夢の如し 「夢の世」とはうまいことをいったものだ。悪夢などを見ると、早く夢から覚めよと思ったり、夢であってほしいなどと願ったりすることがある。今の現実は、まさにそれと少しも違っていない。(聞書第二 百五)
▼判断に悩んだら創始者を思え (鍋島)勝茂公は、あるとき、こういわれた。「大事なことを判断しなければならない局面に遭遇し、どうしてよいかわからなくなったら、しばらく目をつむり、こんなとき日峯様(直茂公)ならどうされるだろうかと考えてみると、物事の道理が見えてくるはずだ」と。(聞書第四 一)
『葉隠』のすべての項目を読む必要はない。人生にかかわる教訓だけを読めばよい。そういう項目を厳選した。しかし、残りが気になる人のために、巻末に全巻(1300を超える項目あり)の小見出し・内容を入れた。そういうことをしたのは、本書が初。底本には気軽に原典にあたれるよう、岩波文庫(上・中・下)を使用した。
読めば必ず大きな何かを得ることができるはずだ。
(城島明彦)
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