長寿社会の大問題「子や孫より長生きして、何がめでたい」
早く生まれた順に死くことこそ「幸せ」
事故や事件で子や孫を失った高齢者の心情を、そういう目に遭ったことのない他人が100%理解することはできない。
親が子より長生きすることを「逆縁」といっているが、今日では祖父母が孫より長生きする例も増えている。
私の場合は、祖父母も父母も「順縁」であの世へ旅立ってきたから、「逆縁」となった人たちの真の気持ちを想像することしかできない。
そのことを改めて考えさせるきっかけとなったのは、来年出版予定の『葉隠』(はがくれ)を現代語訳する仕事をしていて、
「子や孫に先立たれて長生きしている婆さんのどこがめでたい」
と語ったと書かれたくだりを読んだときだった。
『葉隠』といえば「武士道とは死ぬことと見つけたり」があまりにも有名だが、この本は「聞書」(ききがき)で、書かれたのは江戸中期。
当時は、戦争もなくなって世の中が平和になり、主君が死んでも後を追って腹をかっさばいて殉死する、いわゆる「追腹」(おいばら)も禁止され、武士たちが日常生活で〝緊迫感〟を感じなくなった時代で、「今日死ぬか、明日死ぬか」といった(彼らにとって)〝古き良き時代〟への憧れが、本には込められている。
飢饉や疫病の流行などで、人がばたばたと死んでいくような悲惨な状況がくりかえし起きてはいても、もはや戦争で死ぬということはなくなっていたから、戦国時代と比べたら、健康でさえいたら長生きできるようになっていたのだ。
その意味では、戦後の日本とよく似ているといえなくもない。
いつの時代も、「早く生まれた順に死んでいけるのが一番幸せ」なのではないか。
鬱状態のなかで、そういうことを、くりかえし考 えた。
(城島明彦)
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