「西郷どん」、14回目で早々と〝不評域〟に突入! 歴史に無知な視聴者を嘘八百で愚弄した結果だ!
歴史軽視・荒唐無稽な邪道街道をひた走るNHK大河の存続意義は、もはやないに等しい
4月15日(第14回)の「西郷どん」では、将軍継嗣をめぐって刺客が一橋慶喜(のちの15代将軍徳川慶喜)を襲う現場に西郷隆盛がいわせ、その刺客を逆に視察するという場面があったが、歴史をひもとけば、そのような事実はない。
そう考えると、西郷がドラマの中で、
「人をはじめて殺した」
といって泣き叫ぶ場面は、滑稽に思えてくる。
そういう事実無根の場面を捏造すれば、ドラマとして面白くなるだろうという制作側の浅ましい魂胆が透けて見え、不快な気持ちにさせられた。
そう思ったのは私だけではなかったようだ。
チャンネルを切り替えた視聴者も多かったらしく、関東地区の視聴率はついに12%を切った。
ビデオリサーチ調べでは、11.9%である。
近年の大河ドラマの同じ回数(第14回)の視聴率と比べると、2015年の「花燃ゆ」の11.2%、2013年「八重の桜」11、7%をかろうじて超えたものの、大河史上最悪といわれた「平清盛」の13.7%をも大きく下回り、〝完璧な不評域に突入〟したことが見て取れる。
「女城主 直虎」(2017年) 12.9%
「真田丸」(2016年) 17.1%
「軍師官兵衛」(2014年) 14.9%
数字は正直だ。それ以前の視聴率が、評価を端的に物語っている。
「江」(2011年) 19.2%
「龍馬伝」(2010年) 18.5%
「天地人」(2009年) 19.8%
「篤姫」(2008年) 22.3%
今後も歴史を無視した軽佻浮薄なドラマ制作手法が続ける限り、視聴率は低落傾向を続けるはずである。
NHKにしかできない重厚な大河ドラマになぜしないのか!?
私は、昨年秋に『西郷隆盛の正体』という本を出したこともあり、今年冒頭にはBS日テレ「片岡愛之助の解明!歴史捜査」の西郷隆盛(1回目)のメインゲストとして声がかかり、春先には、3回ばかり講演会で西郷隆盛のことを話す機会に恵まれた。
講演会の参会者とは、その後のパーティ-で話を交わす場があったが、多数の人がNHKの西郷隆盛の描き方に不満ないし疑問を呈していた。
NHKは、放送料でドラマをつくっている公共放送であることを忘れて、
「視聴者はバカだ。歴史や実在した登場人物の性格を無視しようが、どう描こうと勝手だ」
と〝上から目線〟で見ているとしか思えない。
歴史にうとい視聴者は、「西郷どん」を見て、ドラマで描かれた出来事や事件を見て、本当にあったのではないかと思ってしまうが、NHKは、そういうことは気にもかけていないのではないか。
オリジナルな恋愛ドラマとか、架空の登場人物を描いた時代劇なら、どういう筋書きにしようが、どういう事件を起こそうが、脚本家や演出陣の勝手だが、歴史上の人物を描き、しかも信頼できる歴史的資料がいっぱいあるのを無視して、嘘八百を並べまくるという手法は、NHK大河としてはいかがなものか。
たとえば西郷隆盛に扮した鈴木亮平は軽すぎるし、妙に明るすぎるが、実在の西郷はどうだったのか。
西郷隆盛の実弟で明治の元勲となる従道(つぐみち)は、存命中に、
「兄は寡黙で、そばにいるだけで怖く、特にあの大きな目でギョロッとにらまれると怖かったが、目の底には慈愛の光があった」
といったことを人に語り、それが記録されている。
鈴木亮平の演じる西郷から、そのような雰囲気のカケラも伝わってこず、体育会系のどこかおっちょこちょいな人柄のように映る。
西郷隆盛の人格のどこが偉大だったのか
西郷隆盛の偉大なところは、人を見分で差別せず、「同じ人間」として接したことだが、必ずしも若い頃からそうだったわけではなく、井伊直弼の恐怖政治「安政の大獄」で追われた尊攘僧月照(そんじょうそう げっしょう)を逃亡させる任務を負ったが、それが果たせず、責任を感じて月照とともに海に身投げした事件で西郷だけ蘇生したために、奄美大島に島流しになったことがきっかけで、人間性に目覚めていくのだ。
西郷は、島津斉彬にかわいがられ、「自分でいいと思ったことはやれ」という思想を植え付けられ、生来備わっていた「大きな器」が開花していくのだが、島津斉彬が死んで、薩摩藩主の父となった斉彬の異腹弟島津久光(大名行列を横切った英国人を殺傷した生麦事件で有名)は西郷を嫌っていたため、勝手な行動を許さず、奄美大島から帰還してほどなく、今度は再び島流しに遭う。
最初の奄美大島送りは、罪人としてではなく幕府の追求から身を隠させるとの意味合いだったから、島で愛加那という女性と所帯を持ち、二児を設けているが、二度目は藩父島津久光の命令を無視したという罪での島流しだったから、牢屋に込められ、衰弱死する手前までいった。
その牢屋で西郷は読書三昧の日を送り、
「天敬愛人」(てんけいあいじん/天を敬い、人を愛する)
という悟りの境地に達するのである。
「大河ドラマの主人公を明るく描けばいい」と単純に考えているNHKのバカさ加減
NHKは、お茶の間ドラマは明るくなければいけないとでも思い込んでいるのか、「花燃ゆ」のときの吉田松陰の描き方もそうだった。
私は吉田松陰の遺書「留魂録」の現代語訳と、彼の生涯を追跡した本を当時、上梓した関係で吉田松陰のことを調べ尽くしたが、どう転んでもNHK大河ドラマで描かれたような軽妙な人物ではなかった。
NHKはNHKという立場を忘れている。
時代が変わったのだから、大河ドラマの描き方も変わって当然だが、多少なりとも歴史や登場人物について知っている人を失望させるような描き方はすべきではない。
たとえ、従来の通説とは異なった描き方をしても、
「そういう解釈の仕方が描き方があったか」
と感服させる必要がある。
ところが、NHKはそういう域には達しておらず、嘘っぽさ、わざとらしさ、軽すぎるといった邪道ばかりが目につく不快な描き方ばかりやって来た。
NHKにかけているのは、そこだ。
少しは歴史に忠実なドラマにしたらどうか
「西郷どん」は、西郷隆盛の後妻になる糸(糸子)の大幅な年齢詐称に始まり、島津斉彬が実父にロシアンルーレットを挑むという荒唐無稽な展開にしろ、西郷隆盛と橋本左内が井伊直弼と直接、話をする場面で、西郷や左内が井伊直弼を面罵するなど、身分制度の厳しかった江戸時代に天下の大老に対し、そのような口のきき方をすること自体、ありえない。
現代ですら大企業の若い平社員が社長に面と向かって公然と悪口をいうなどありえないのだ。
反幕府的な西郷や橋本は、隠然と倒幕運動を展開するのであって、にらまれたら殺されるが、自ら殺されに行くようなことはしていない。
話を面白くするために、直接井伊直弼を罵倒すればいいという、あまりにも単純軽薄で荒唐無稽な演出技法にNHKは走っているが、視聴者もバカではない。
視聴者を愚弄しているNHK大河「西郷どん」の視聴者は、まだ始まったばかりだ。
西郷隆盛と同郷で大久保利通の描き方も、実在の人物とは思えない。
折しも、その大久保利通役の瑛太の暴行事件がメディアに取り上げられているが、瑛太同様、NHKも〝横暴〟〝捏造〟という名の〝強権映像的暴力〟で視聴者を愚弄蹂躙しているといったらいいすぎか。
鹿児島では西郷隆盛の人気が絶大なのに対し、大久保利通は極めて人気薄だ。
西郷を島流しにした島津久光に取り入るために、大久保は久光の趣味である囲碁を習い覚えて接近し、自分を売り込むことに成功したり、西郷が西南戦争を起こした際も、西郷を助けるために命を張ろうとしなかったなど、きわめて打算的で、誰からも好かれる西郷隆盛とは対極にある人物だったのである。
それにしても、NHKの上層部は、何を考えているのか!?
視聴者は、特に鹿児島県人はもっと怒り、もっとあざ笑ってよい。
(城島明彦)
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