13歳の少年西郷と16歳下の後の妻が会っていた!――NHK「西郷どん」は歴史と視聴者をなめているのか!?
そこまでやるなら、「西郷も龍馬も死なず、どちらも女だった」としたらどうか
先週の日曜日に「西郷どん」の第1回放送を視聴したが、気になるところがあったので週末の再放送も見た。
その結果、最初見たときには気づかなかった誤りや矛盾点に気づくことになった。
少々の誤りや矛盾は構わないが、でたらめすぎることは許しがたい。
今回は、その話である。
「ドラマを面白くするためなら、何をやってもいいのか!」
という古典的かつ素朴な疑問があるが、NHK大河ドラマは、過去の「江 ~姫たちの戦国」(2011年)でも、少女を大人の女優に演じさせて、NHKは抗議・ひんしゅく・罵倒の嵐に見舞われたが、少しも懲りていないようだ。
バラエティ難組で、おばさん女優にセーラー服を着せるのとはわけが違うのだ!
島津斉彬と少年西郷の出会いはない
NHK大河ドラマ「西郷どん」第1回放送では、西郷隆盛の成人後のドラマを盛り上げるための伏線として、後日、彼を大抜擢することになる薩摩藩主島津斉彬(なりあきら)と少年西郷が二度も会って、したしく言葉を交わす設定になっていた。
島津斉彬と西郷隆盛の年齢差は20歳近い。
江戸藩邸で生まれ育った薩摩藩の世子島津斉彬(なりあきら)が藩主になるのは42歳と遅く、初めてお国入りするのは1851(嘉永5)年春のことで、それ以前に、ずっと鹿児島に住んでいた西郷隆盛と顔を合わす機会は皆無だが、鹿児島へ赴任してからは、家臣に「意見書」を出せと命じ、一介の下級武士にすぎなかった青年西郷隆盛も、自身が関わっていた郡奉行所の下っ端役人として感じた「農政」に対する意見書をたびたび島津斉彬に提出していた。
その文書を読んで斉彬は西郷青年の非凡さを見抜き、江戸へ向かう参勤交代の要員に大抜擢するのである。
大名行列が最初に小休止した場所で、島津斉彬が、
「西郷隆盛というのはどの男であるか」
と側近の者に尋ね、
「あの男でございます」
と教えられたというエピソードが残されている。
顔を見知っていたら、そういう質問はしない。
このエピソードから考えられるのは、もし斉彬が「西郷どん」で二度も少年西郷に会った後、家臣に命じて、その少年がどういう氏素性のものか、調べさせたのではないかということだ。
島津斉彬という殿様は、そういう人物だったのである。
ひときわ大きな体で巨眼の威風堂々とした青年西郷の姿を見て、島津斉彬は自分の目に狂いがなかったと思ったのではなかったか。
そして江戸藩邸に着くと、西郷をそば近くに自由に出入りできる「庭番役」(秘書兼密偵)に大抜擢するのだ。
――そんな風に考え、発想するのが、歴史考証に対する一般的かつ常識的な姿勢である。
そういう考え方からすると、ドラマのように「西郷が少年時代に島津斉彬と会話」をし、「武士でありながら腕を切られ、剣を握れなくなった」と訴える場面はまずありえないが、そこはNHKもしっかり意識していて、
「この時期に島津斉彬が鹿児島にいたという歴史的事実はないが、会ったのは天狗か影武者だったかもしれない」
とナレーションで語らせており、こういう描き方はうまいと思った。
そういう解釈なら、いろいろ矛盾はあっても、誰も文句はいわないが、そのレベルではすまない嘘八百が次々と出てきたのだ。
嘘八百は朝ドラでやれ
ここ数年のドラマに比べ、話の展開も早く、その点には好感を持ったし、評価もするが、あまりに白々しい嘘八百を日曜夜のNHK大河ドラマでやるというのは、いかがなものか。
やりたければ、朝ドラでやれ!
他にも、ひどいウソがいっぱい出てくる。
冒頭のナレーションで「皆が『西郷どん』と呼んだ」という西田敏行のナレーションが流れ
たが、「西郷どん」という呼称を今回、初めて耳にした人が圧倒的多数である。
私も、NHK大河ドラマが発表されたときに、そいう呼び方があったということを初めて知った一人だったので、昨年『西郷隆盛の正体』という本を書くにあたっては、鹿児島県や鹿児島市の図書館や観光課、西郷隆盛関係の資料館などに問い合わせて、いろいろ丁重に教えてもらったが、「西郷どん」は鹿児島を中心とする九州地方の方言なのである。
誰もがいう全国区の呼び方は「西郷さん」だ。
事実無根はどこまで許されるか?
ドラマであるから、その程度のホラ話は許されるが、のちに西郷の後妻となる少女時代の岩山糸が少年西郷と言葉を交わしたりする場面も出てくるが、これはどう考えてもありえない話である。
ところが、「西郷どん」には、目をつむれないような事実無根の描き方がいくつもあり、前途が思いやられると、私は感じた。
具体的にいうと、「西郷どん」第1回では、少女の岩山糸が男しか参加できない行事に男の格好をして加わり、女であることを見破られて、ひと騒動起きる場面が出てくる。
この描き方でおかしいのは2点だ。以下に説明する。
「西郷どん」第1回の「ここがヘン!」――その1
まず、当時の鹿児島(薩摩藩)は「きわめつきの男尊女卑」社会で、ドラマで描かれたような「少女が男の格好をして少年だけで競う荒々しい行事に参加する」などということは、どう逆立ちしてもあり得ない。いってみれば、江戸時代の東海道に車を走らせるような信じがたい発想である。
西郷少年が、「女を差別するのはおかしい」と抗議する場面もあるが、そういうことで「西郷隆盛は少年時代から正義感が強かった」「女性に対してやさしかった」と描こうとしたのなら、邪道も甚だしい。
「1人ぐらいそういう先進的な女性がいてもいいのではないか、いや、1人ぐらいいたはずだ」
と脚本家やNHKは考えたのかもしれないが、そんなことはありえず、岩山糸という女性がそんな無茶をする人でないことは、ちょっと調べたらわかるはずだ。
「西郷どん」第1回の「ここがヘン!」――その2
NHKの犯した致命的なミスは、当時「小吉」と呼ばれていた13歳(数え)の西郷少年とまだ生まれていない少女糸が出会っていたという無茶な設定である。
なぜ13歳当時と断定できるかといえば、第1回で描かれた「西郷隆盛が喧嘩をした相手に腕を切られる事件」が起きたのは、その年齢だったからである。
糸が生まれるのは、その事件の3年後である。つまり、16歳もの年齢差があったのだ。
ドラマで描かれる少女糸は、演じる子役の姿から推察して「5~7歳ぐらい」の設定になっていると思われるが、少女が5~7歳に成長したときには西郷隆盛は21~23歳の青年でないと辻褄が合わない。
それなのに、ドラマでは同世代の少年少女として描かれている。
糸という女性の生涯がよくわからないなら、そういう描き方も許されるが、彼女の場合、生没年はわかっているのだから、ただドラマを面白くするために年齢を極端にごまかしたというのは、NHKがつくる大河ドラマでは許されないのではないか。
これは原作にあるのか? もし原作でそういう風に描かれていたとしたら、作品そのもの評価に×印がつくが、林真理子ほどの作家がそのような初歩的ミスを犯すはずもないと思うから、脚本家の創作なのか? あるいは、NHKのプロデューサーあたりがそういうアイデアを出したのか?
もしそうなら、NHKがやっていることは、「江 ~姫たちの戦国」よりもっとひどい。
そういうやり方が許されるなら、(極論すれば)聖徳太子が平安時代とか鎌倉時代に登場してもいいという理屈になる。
NHK大河ドラマは、SFなのか!? 孫悟空や猪八戒のような者が跋扈し、戊辰戦争では上空をドローンが飛びまわるのか!?
時代考証の学者は何をしているのか
NHK大河ドラマには、「時代考証」担当の複数の歴史学者がついているが、この人たちは何をやっているのか!
近年、低視聴率にあえいでいるNHK大河ドラマを成功させたいという制作陣の焦り思い、話を面白くしたいという脚本家の気持ちはわからなくもないが、13歳の少年西郷と16歳下の後の妻が会っていたとする設定は、ドラマの内容そのものへに対する「?」を招き、かえって視聴率の低下を招く大きな要因になりかねないのではないか。
○私の意見・主張に興味を持った人なら、拙著も面白く読んでもらえるのではないか。
(城島明彦)
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