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2017/11/12

シイちゃん訪ねて幾千里。ああ、疲れたの巻


「秋たけなわ」って、どんな縄じゃろか

 「竹で編んだ縄に決まっとろうが」
 どこからか、女の声がした。
 聞いたことがある声だった。
 
 姿を現したのは、おお、お懐かしや、かの夏目雅子が演じた鬼龍院花子ではないか。
 気がつくと、わしは、うれし恥ずかし、花子と絡んでおったのじゃ。

 夢はええのう、何でも思いどおりじゃ。
 ときには鬼面山ブス子に迫られる夢もあるが、大概は美女じゃな。
 Cカップだろうが、Dカップだろうが、カップ麺だろうが、思いのままじゃ。
 た、たまらん! イッヒ・タマラニッヒ!

 ところがじゃ、わしが花子の足の付け根に顔を埋めたとたん、花子が怒鳴っての。
 「舐めたら、舐めたらいかんぜよ!」
 わしは思わず詫びを入れておった。
 「す、吸いません」
 目が覚めると、丸まった掛布団をしっかりと抱きしめているではないか。
 何のこっちゃ。
 
 「わしもまだまだ枯れてはおらん」
 などと、ぶつくさいいながら枕元の目覚まし時計を見ると、午前2時ではないか。
 眠ってから3時間しかたっていないのに、どういうこっちゃ。
 気づけば膀胱が満タンの気配、ちびらないようにトイレで用をすせてから二度寝じゃ。
 
 するてぇと、また夢を見てしまった。今度は、こんな歌が聞こえてきた。
 ♪みんなは しいの実
   元気な しいの実
   お風に揺れて 歌おうよ
   お庭でころころ 遊ぼうよ
  みんな仲よく 遊ぼうよ

 わしが「シイちゃん」を訪ねて山野を徘徊することになったのは、その日からでな。
 シイちゃんとは、ドングリの親戚の「椎の実」のことや。


CGはシージーでも「椎爺」じゃ

 わしは小学校3年生の夏まで、田舎に住んどったんや。
 その村にある親戚のお屋敷の裏にシイの巨木があっての、わしが幼少期のある秋の日、母親がシイの実をもらってきて、一度だけだが食べたのじゃ。
 生で食べたか、炒って食べたかは覚えてはおらんが、初めて食べたので、えらくうまいように思えた。

 次にシイの実を食べたのは、それから35、6年すぎてからじゃった。逗子の山で道に迷って、山中のお寺で道を尋ねたとき、住職の奥さんがお茶と炒ったシイの実をご馳走してくれた。
 今の人は見向きもしない素朴すぎる味じゃが、わしは感激したんじゃな。
 「今度は、わが手でシイちゃんを拾って、自分で炒って食べてみたい」
 と思ったのじゃが、そのまま歳月が過ぎていきよった。

 その思いが、ふっと蘇って、わしを促したんじゃな。
 なぜ、今年の秋なのか!?
 もう先が長くないのかもしれんのう。

 で、わしはやな、そのシイちゃんを探しに、お万歩計を腰につけ、足の向くまま気の向くままに、これまで一度も足を踏み入れたことのない里山へと出かけたのじゃ。
 というのは、ちと大げさすぎるかの?
 うんにゃあ、よじ登るときに思わず掴んだ木の枝がポッキリと折れて、ものの見事に足をすってんころりん、ステンカ・ラージンじゃったが、お万歩計は2万歩超えじゃたけえ、決して大げさではねえだ、お代官様。

 ん? いつの時代の話をしとるんや!


どぶ臭い一級河川沿いに歩いた歩いた

 「高瀬川」といえば、森鴎外の代表作の一つ。
 「広瀬川」といえば、さとう宗幸の「青葉城恋歌」
 「若瀬川」といえば、頭が禿げ気味だった元関取。
 「長良川」といえば、五木ひろしのヒット曲「長良川艶歌」。
 「神奈川」といえば、東京都の隣の県。
 「音無川」といえば、わしが30年ほど前に野ぐそをした飛鳥山公園を流れる川。

 「あほクサッ、いつまでやっとるんじゃ」
 という罵声が聞こえてきそうなので、お遊びの「川ずくし」はこれでおしまい。

 わしが歩いたのは、「鶴見川」という一級河川沿いじゃ。
 しかし、この川はいかんのう、ドブ臭うてたまらん。タマラ・プレスじゃ。
 なのに、ジジババが散歩したり、若いのがジョギングしちょる。

 それでもわしは、お腰にお万歩計をつけて、「鶴見川」に沿って、てくてく、のろのろと歩きまくったのじゃ。
 これがホントのテクノロ爺(じい)ってか。
 秋はええのう、飽きがこん。山の中ではキツネがコン。テレビつければ大村崑。

 しかしなあ、お万歩計はあっても地図も磁石も不携帯。スマホなんぞ、持つ気もねえ。
 
 ところがどっこい、上流に行くにつれて、川が二手に分かれたり、暗渠になっておったりしてのう、わしは、何度も何度も道に迷うて、疲れ果ててしもうた。
 おまけに、里山に分け入っても、ドングリはワンサカ落ちているが、シイちゃんにはさっぱりめぐりあわなんだ。
 ♪すっかり 困ったき わ~いわい
 と、わけのわからん懐メロの歌詞の一節を口ずさみつつ、今来た道を逆戻りスロバニア。

 歩きながら、わしも考えた。
 「水は低きに流れる。知恵の低きはバカ。馬鹿が逆立ちするとカバ。カバの皮で作ったカバン」
 というわけで、わしは、土地が低い方へ低い方へと歩いていったのじゃが、あきまヘンドリックスや、道は一直線に下がっているわけではなく、上り下りしておったのじゃ。

 そんなわけで、将棋は棒銀、ワインはボージョレ・ヌーボーの秋じゃというのに、くたくたに疲れ果てて、わしの足は棒状で、見つけたちっこい公園で、とうとう小休止する始末。
 ああ、情けなや、年寄りの冷や水とはこのことか。
 15分も休んで、ふくらはぎをマッサージして、疲れをトリコモナス。
 通りかかった爺さんに
 「ちょっとお尋ねしますが、鶴見川はどこですか」
 と尋ねてみれば、こはいかに、つい目と鼻の先じゃった。
 そこから、再び川に沿って、てくてく、とぼとぼと帰ったのだが、帰り道がえらく遠く感じられて、ああ、しんどローム。
 だけど、男は我慢、我慢、我慢や、痩せ我慢

 ところが、それから数日後、土木事務所に「シイちゃん」の木が植えてある場所を尋ねると、近所の公園にあったのじゃな。
 さっそく行って、苦もなく、仰山拾ってきて、炒って食べまくった。
 
 ――てなわけで、「あほくさ!」「骨折り損のくたびれ儲け」というのが、「シイちゃん訪ねて幾千里」の最初のお万歩の結末というわけじゃな。


◆さあ、ここからは宣伝や宣伝や

 来年のNHK大河ドラマの主人公西郷さんについて、わしが書いた本なんや。税込み1620円で、1冊丸ごと、「西郷さんがなぜ誰からも愛されるか」をトコトン探った内容になっとるでな。11月6日に新発売や。 
 絶対、損はさせへんよ! ぜひ買ってちょうでゃあなも!(と、ここだけなぜか名古屋弁)
 Photo ※写真をクリックすると、ドングリまなこを超えた「西郷さんの巨眼」が迫って来るから、その眼を見ながら祈ってごらん。御利益があるよ!

(城島明彦)

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