大河ドラマが始まる前にぜひ読んでほしい一冊『考証・西郷隆盛の正体』
吉田松陰、坂本龍馬も心酔した日本陽明学
拙著『検証・西郷隆盛の正体』が書店の店頭に並んだ。
ありていにいえば、来年放送のNHK大河ドラマ「西郷どん」に照準を合わせたものだ。
だが、それだけではない。
西郷さんは、日本陽明学の思想を実践に移すことで明治維新を成し遂げ、最大の功労者といわれるようになったが、私は今年5月に〝日本陽明学の始祖〟中江藤樹の代表作『翁問答』を現代語訳(到知出版社)しているので、西郷さんのことを書く機会に恵まれたことは、とてもうれしいのである。
陽明学は中国が発祥の地だが、本家の中国では学問の域を超えることはなかった。
一方、日本では、革命思想として政治に大きな影響を与え、明治維新の思想的バックボーンとなった。したがって、単なる「陽明学」ではなく、「日本陽明学」という言い方をするのである。
中国で生まれた陽明学を日本流にアレンジした始祖が〝近江聖人〟といわれている中江藤樹で、その精髄に心酔し、自身の行動規範として明治維新という革命を達成した巨人が西郷隆盛であり、志なかばで散っていった吉田松陰や坂本龍馬らである。
大塩平八郎や乃木希典も、日本陽明学の信奉者である。
その後、日本陽明学を悪用して太平洋戦争に突き進んだ軍人も現れるが、日本陽明学本来の思想は、他国を侵略・支配するような思想ではない。
知行合一と至誠(真心)
日本陽明学の思想を一言でいうと、
「知行合一」(ちこうごういつ、または、ちぎょうごういつ)
である。
「口でいっていることと、実際に行っていることが一致する」
別の言葉でいうと、「言行一致」だが、いったことをただ実行すればいいというのではない。「至誠」(真心・誠意)に裏付けられた実践でなければならいのだ。
そうするためには、「私心」(自分のためにする気持ち)は捨てなければならない。
つまり、「無私」が知行合一の原点である。
したがって、日本陽明学を修得すると、自分自身を高潔な人格にまで高めようと努力するようになる。
書名の由来
『考証・西郷隆盛の正体』
という書名は版元の㈱カンゼンがつけた。
同社はスポーツ関係の本を多く出しており、今後は歴史ものにも力を入れていきたいということで、本書が登場した。
当初、私が考えていた書名は、
『なぜ西郷さんは誰からも愛されるのか』
だったので、違和感もあったし、抵抗感も覚えた。
そのわけは、
「正体」
という言葉に対してである。
「正体」という言葉は、昭和に少年期を送った私のような年齢の者には、時代劇映画などを通じて、
「貴様の正体を暴いてやる」
「とうとう正体を現したな」
といった使い方が普通だと思っているところがあるのだ。
人間に化けた妖怪が正義の刃を受けて、ついに妖怪の姿を現したといったイメージがあるのだ。
しかし、辞書(『広辞苑』)を引くと、最初に出ているのは、
「そのものの本当の姿」
という意味である。
別の言葉にすると、
「真実の姿」「正しい姿」
ということになる。
しかし、その次に書かれているのは、
「変化する前のもとの姿」
「本体」
である。
子ども時代に見た映画でいうと、
「美女に化ける前の妖怪の姿」
が「正体」ということになる。つまり、
「本来の姿」
「本当の姿」
を「正体」というのだが、化けるという恐ろし気な変化のイメージが、子どもたちには強烈すぎるので、「正体」を悪い意味だと誤解してしまったのである。
『広辞苑』の「正体」には、「ご神体」という意味も記されているが、『考証・西郷隆盛の正体』の「正体」がその意味でないことはいうまでもない。
あまたある西郷本の中で、ぜひ本書を! 失望させません。
(城島明彦)
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