「平清盛」以来の〝視聴率ジリ貧記録〟に目をつむり、「『真田丸」は大健闘」を連発するNHKの居直り
数字は嘘をつかない! NHKの言い分は、ここも、あそこもおかしい! 深層的「真田丸」論
新垣結衣主演の「逃げ恥」(全11回)とNHK大河「真田丸」の視聴率推移を比べてみると、まるで正反対だったことがわかる。
「逃げ恥」の視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)は、回を重ねるごとに上がって、最終回では20%を超え、見事な「右肩上がり」となった。
10.2%→12.1%→12.5%→13.0%→13.3%→13.6%→13.6%→16.1%→16.9%→17.1%→20.8%
最終回の日には、ケネディ中日大使以下のアメリカ大使館員が「恋ダンス」を踊るなど、大人気となった。
一方、「真田丸」はというと、全50回の視聴率を全部記すのは煩雑になるので、10回ごと(1~10回、11~20回、21~30回、31~40回、41~50回)の平均視聴率で比較すると、「逃げ恥」と正反対の絵に描いたような「右肩下がり」となっている。
17.9%→17.5→16.8→16.0→14.8%
この数字の推移が何を意味するかは、説明するまでもない。
ドラマが進むごとにファン離れが起きていたのである。要するに、「じり貧」だったのだ。
にもかかわらず、NHKは、
「5年ぶりに平均視聴率が16%になった」
などと、大はしゃぎだった。
こういうのを〝から騒ぎ〟という。
その理由を以下に説明しよう。
近年放送のNHK大河を、10回ごとの平均視聴率推移で比較してみると、回を追うごとに数字を下がっていったのは、史上最悪といわれた2012年の「平清盛」と「真田丸」だけなのである。
この2作品以外の近年放送の大河ドラマは、途中で少し盛り返したりしており、ストレートに下がり続けたのは礼はない。
これが、「真田丸」の実体なのだ。
◆「これだけやっても、この程度」というのが真の見方だ!
「平清盛」の主演が、放送前から「えーっ! なんでこの人が」という声が多かった松山ケンイチだったのに加えて、小汚い画面が総スカンを食い、視聴者がどんどん離れていくのは目に見えていた。
それに対し、「真田丸」の場合は、2013年のTBSの連ドラ「半沢直樹」で42.2%という驚異の最高視聴率をたたき出した好漢・堺雅人が主演し、大泉洋、長澤まさみ、遠藤憲一、木村佳乃ら、何社ものCMに出ている人気者でまわりを固めた。
そのほか、バラエティ番組にも登場して人気があった高畑淳子や、13社ものCMに出て2016年のCM女王になる吉田羊の起用も、その人気を当て込んだキャスティングだった。
信繁の正室役には、映画賞をいくつも獲得した若手演技派の黒木華を起用し、真田信繁(幸村)の父)には、Eテレの「美の壺」でインテリ層に支持されている草刈正雄を当て、幅広い層を狙ったつもりはずだった。
さらに、ナレーターには、NHKの朝の番組「あさイチ」の顔である有働由美子を起用し、
しかも、脚本家には知名度の高い三谷幸喜を起用するなど、NHKは満を持して臨んだのだ。
これだけ贅を尽くし、例年以上に「番宣」をふやしてPR し続けながら、(えげつない表現をするなら)このザマなのである。
◆竜頭蛇尾だった「真田丸」
出だしの5回と最後の5回の視聴率を2014年の「軍師官兵衛」と比べてみると、〝派手な印象〟を与えた「真田丸」は前評判をあおったものの、ドラマが進むにつれて視聴者が次第に失望し、離れていったことがわかる。
一方、どちらかというと〝地味な大河〟だった「軍師官兵衛」の方が、最後の最後の五回の視聴率ではすべて、「真田丸」を上回っているのだ。
▼1~5回の視聴率比較⇒「真田丸」がリード
「真田丸」 19.9% 20.1% 18.3% 17.8% 19.0%
「軍師官兵衛」18.9% 16.9% 18.0% 16.5% 16.0%
▼45~50回の視聴率推移比較⇒「軍師官兵衛」が終始リード
「真田丸」 14.2% 15.3% 16.1% 14.8% 14.7%
「軍師官兵衛」16.4% 15.4% 16.6% 15.8% 17.6%
「真田丸」と「軍師官兵衛」とでは、まるでパターンが違っていることがわかるのである。
、「真田丸」が思ったより伸びなかった理由の一つは、NHKならではの正統派の時代劇を望んでいた大河ファンが、随所に登場する「面白くするために、史実を無視した描き方」に辟易し、そっぽを向いたからである。
◆不信感① NHKにはタブーの〝エロ事件〟2件が足を引っ張った
視聴者は、公共放送であるNHKの番組に対しては、クリーンなイメージを求めている。
ところが、主要な出演者2人に関係する「セックススキャンダル」も、視聴率を引き下げた。
息子がレイプ事件を起こした高畑淳子は真田信繁(幸村)の母役、若手タレントと〝7連泊〟などと報じられた吉田羊は信繁の妻(正室)役とくれば、視聴者はどうしても好奇の目で二人を見る。
▼バカ息子の逮捕劇で、NHKは高畑淳子を出せなくなり、ドラマ展開が不自然になった
高畑の息子の事件は、8月23日に発覚。「真田丸」への出演前だったから事なきを得たが、息子の責めを負った母淳子の出番を激減。ドラマづくりに狂いが生じた。
▼「2016年のCM女王」として13社ものCMに出ている吉田羊が、こともあろうに、自宅マンションに20歳下のジャニーズのタレント中島裕翔を〝7連泊〟させたと報じられた
吉田の事件は、4月11日発売の『週刊ポスト』が掲載。その後も、吉田を起用したCMは流れ続けたが、報道前に比べて彼女に対する見方は確実に変化した。
40代で独身だから恋愛は文句をいわれる筋合いではないはずだが、それまでの〝爽やかなイメージ〟とは裏腹の〝肉欲系か〟という真逆のイメージを視聴者に抱かせたのは、ベッキーに対する世間の目と近いものがある。
◆不信感② 「史実は無視しても、面白ければいい」というインチキまがいのドラマづくり
ドラマづくりに対するNHKの究極のいびつな考え方を示しているのが、柴咲コウ扮する井伊直虎を主人公にした2017年大河ドラマ「おんな城主 直虎」。
なぜなら、直虎の血がつながる井伊家の末裔は、
「系図などを調べた結果、直虎は女ではなく男」
と主張し、NHKの考え方に異議を唱えているのだ。
視聴率を少しでも稼ぐには、
「女でも男でもいいじゃないか。話が面白くなれば」
とNHKは考えているのだ。
「話が面白くなるなら、何でもやる」
という史実無視のあざとい設定は、「真田丸」でも随所で見られた。
わかりやすかったのが、関ケ原の合戦に敗れて九度山麓に幽閉されていた真田信繁が、大坂冬の陣・夏の陣に再び豊臣方に参戦する際の様子を描いた場面だ。
三谷脚本は、髪の毛も黒々とした信繁が、白髪で歯も抜けた老人に変装して大阪城へと馳せ参じるという描き方をしたが、史実は180度逆で、10月24日に真筆と判定された真田信繁が姉婿に宛てた手紙には、「歯も抜け、髪も白くなった」と記されている。
原文は100年ぶりに発見されたが、その手紙の写しは資料として存在しているので、三谷もNHKもわかっていたはず。
民放なら笑って許されても、受信料を取っているNHKがやると許されないこともある。
例えば、八代将軍吉宗が江戸城と市中の長屋を往復しながら、悪を懲らし、善良な町民を助けるという「暴れん坊将軍」や、小田原から先に旅しなかった水戸光圀が、全国を漫遊して悪をやっつける「水戸黄門」や、次から次へと名推理を展開して事件を解決し、胸のすく裁きを見せる「大岡越前」などは、誰もが史実とは思わないから罪がない。
だが、NHKが同じことをやれば、苦情が殺到するだろう。
◆不信感③ なぜ歴史的事実を無視するのか!?
「真田丸」に話を戻すと、史実を重視するなら、〝智略に満ちた狼のような戦国武将〟だった信繁だが、長きにわたる僻村への幽閉で、髪は白くなり、歯も抜けた老人になっていたところへ、再び戦が始まると聞いて、大阪城へ駆けつけるには、どうすればいいか。
髪を黒く染め、欠けた歯を義歯で補うなど、あれこれ工夫して、老いを感じさせないようにする方が、真実味がある演出ではなかろうか。
要するに、NHKは、老人に化ける方が面白くなると考えて、史実とは逆のパロディをやったのだ。
NHK大河ドラマのファンには、歴史に詳しい人がたくさんいるので、史実無視の奇をてらった三谷脚本を見せつけられると、ただただ白けるだけだ。
◆不信感④ 〝ご都合主義の象徴〟は、長澤まさみ扮する「きり」
「主人公やジュンス役クラスなど、重要な役柄の人物は、とにかく、歴史的事件に絡ませたい」という考えが、常にNHK大河にはある。
ひどかったのは、2011年の「江~姫たちの戦国~」だ。
物見遊山気分で堺にいた家康は、本能寺の変が起こって、信長の次に明智光秀に命を狙われたため、服部半蔵の手引きで、命からがら伊賀越えをして窮地を脱する場面に、主人公の江を同行させたのである。
主要な登場人物が、「歴史の変わり目ををその目で目撃した」「歴史に絡んでいた」となれば、話が面白くなる。
そう考えて、史実もへったくれもない描き方をするのが、近年のNHK大河だ。
どの大河でも、必ず立ち聞きしたり、盗み聞きしたりする場面が何度もあるのは、そういう考え方に基づいている。江も、何度も何度も盗み聞きしていた。お姫様が、そんな行儀の悪い教育を受けたとも思われないが、NHKは盗み聞きが大好きなのである。
「真田丸」でも、きりに何度もそういうことをやらせている。
それもこれも、民放なら「しょうがねぇなあ」と笑って許せるかもしれないが、NHKだと見る目が厳しくなって当然である。
NHKの「ファミリー・ヒストリー」では、一個人の先祖をとことん調べ尽くしており、好感が持てるが、その驚嘆すべき調査力をNHK大河版は、なぜ駆使せず、どうしてお茶を濁したようやり方ばかりするのか!?
「真田丸」でいえば、長澤まさみが演じた「きり」が、まさにそれだ。
きりは、真田信繁の側室の一人をモデルにしているようだが、当時は女性についてはほとんど記述がない。だからといって、ドラマで描かれているように、次から次へとさまざまな事件の重要人物のそば近くに必ずいるということは、不自然を通り越してありえない話である。
そこでも、「話を面白くするためなら」という意図が見え隠れするのである。
もう一つ、長澤まさみという女優の出番・見せ場を多くつくってやろうという製作者側の意図も感じられた。つまり、彼女のファン層を狙って、無理やり出番を多くしているという、視聴者から見ると不自然なドラマ展開に映るということだ。
長澤まさみが「現代風のしゃべり方」をしたのも、大河ファンを白けさせていた。
こういった奇をてらった〝本末転倒の戦略・戦術〟が、「真田丸」にはいくつも見られたのだ。
◆不信感⑤ 女性主人公の大河で視聴率を稼ぐのは無理だ!
女性を主人公にしても一向にかまわないが、戦国時代・江戸時代の女性は、歴史の表舞台では活躍できなかったという事実がある。
そういう既成概念をNHKは破壊しようとして一年おきに女性を主人公にした大河ドラマを作っているのかもしれないが、圧倒的多数の視聴者は、そうすることを望んでいない。
そのことは過去の視聴率に反映されている。
大河ドラマの視聴率は「平清盛」で地に堕ちたが、それを回復させるために男を主人公にすべきところ、男女交互にこだわって、綾瀬はるか主演の「八重の桜」を放送した。
「平清盛」は12.0%(50回の平均視聴率)という史上空前の低視聴率を記録し、それを2013年の「八重の桜」は14.5%(同)と回復させたが、男を主役にしていたら、もっと回復していたはずである。
2014年の「軍師官兵衛」は、15・8%なのだから。
(自己PR)
石田梅岩『都鄙(とひ)問答』(現代語訳:城島明彦/版元:致知出版社)
※画像はクリックすると、バカでかくなります。
石田梅岩『都鄙問答』から強い影響を受けた偉人:福沢諭吉⇒渋沢栄一⇒松下幸之助⇒稲盛和夫
〝CSR(企業の社会的責任)の原点〟といわれている『都鄙問答』の現代語訳は平成初・日本史上2冊目。
(城島明彦)
« 師走とて あわただしさは 感じるも 走る教師は ついぞ見かけず | トップページ | 頭を振る振るフル回転させる「ギャグリンピック」でございます »