松下幸之助翁、稲盛和夫氏を尊敬する人は必読! 石田梅岩『都鄙問答』、全文現代語訳で登場!
『都鄙問答』のすゝめ――全文を読まずに石田梅岩を語るなかれ!
石田梅岩の代表作『都鄙問答』は、松下幸之助翁だけでなく、稲盛和夫氏の経営や人となりにも大きな影響を与えた名著で、岩波文庫が今年の2月にリクエスト復刊したが、ほとんどの人は数ページも進まないのではないか。
よほど古文に精通している人でないと、抵抗なく読みすすめるのは難しい。それくらい、難解でややこしい表現が、わんさか出てくる本だ。
「商人道」について書かれている個所の断片的な知識は知っている人も多いかもしれないが、全文を読み通した人は、どれくらいいるだろう。書かれた意味を理解しながら読めたという人となると、さらに激減するはずだ。
「商人道」のところだけ知っているだけでも、何も知らない人よりははるかに有意義だが、それは全体の中の一部であり、「木を見て森を見ない」危険性も逆に生じる。
『都鄙問答』のなかには、飛ばし読みしてもよいような内容の個所もあるが、読まないで知らないのと、読んでも心に残らなかったのとは意味が大きく違うのである。
だから、全文を読むべきである。『都鄙問答』は4巻から成っているが、もっとも難解な「性理問答」以外は、それほど無zかしくはない。
できる限りわかりやすい現代語にすることを心がけたつもりなので、読めば趣旨はよく理解できるはずだ。
〝不祥事企業〟として世間を騒がせた企業の社長や役員は「商人道」をはき違えている
私は、機会があって、ここ数年、企業の不祥事を「危機管理」という面から月刊誌に連載してきたが、連載回数は10月1日発売号で38回に達する。
中には2回取り上げた企業も1社だけあるが、ほとんどが誰でも知っている大企業が、それだけの件数の社会的事件を起こし、社長がメディアの前で深々と謝罪してきたのだ。
だが、それらの企業のHPを見ると、「コンプライアンス」がどうの「CSR(企業の社会的責任)」がどうのといった立派な宣言をしている。
「いっていること」と「やっていること」が違っているのが、不祥事企業である。
あなたの会社は大丈夫か!? その連載を通じて、私は、犯罪歴のある不祥事企業に限らず、日本の企業人はすべて、もう一度、〝日本のCSRの原点〟といわれている石田梅岩の『都鄙問答』を読むべきではないか、と考えるようになった。
時代は違っても、江戸時代に生きた石田梅岩も、そういうこと感じたからこそ、「人としてのあるべき道」や「まっとうな商人としての道」を多くの人に示すために『都鄙問答』を著したのである。
人間の心・本性は、石田梅岩のいた江戸時代、いや、孔子や孟子がいた数千年前とちっとも変ってはいないのだ。だからこそ、今でも『論語』や『孟子』が広く読まれるのである。
しかし、『都鄙問答』の全文をわかりやすい現代語訳にした本は、これまでは、書店へ行ってもなかった。
何十年も昔に思想書としてあらわされた本が一冊、現代語訳していたが、わかりづらく、読みにくく、しかも間違って訳している個所も結構あって、今は絶版だ。
誰もが気軽に手に取って読める現代語訳は存在しないという状況だったのだ。
「ならば自分が」「誰もやらないなら、自分が」「少しは世の中のためになることをしたい」
と勢い込んで、4月から現代語訳に取り組み、この9月末に書店に並ぶ運びとなった。
幸之助翁と梅岩には丁稚から始めたという人生の共通点
私は、ソニーに務めていた30数年も前の時代に、ライバル企業松下電器産業の創業者松下幸之助翁が座右の書としていた石田梅岩の代表作『都鄙問答』に関心を持った。
だが、それだけだった。
石田梅岩は、江戸中期、吉宗の享保時代に活躍した人である。
「石門心学」と呼ばれる梅岩の深い思想にも、さしたる興味もわかなかった。
石門心学というのは、石田梅岩門下の心学という意味だ。
PHP研究所は、松下幸之助翁が石田梅岩に倣って創設したということを聞いても、そういうものかとしか思わなかった。
若かったのだ。
〝商人道の開祖〟石田梅岩は、自身が信じる「人としての道」である「心学」を、少しでも多くの人に知ってもらいたくて、40代になってから商店勤めを辞めて、私塾を開いた。
PHP研究所にも、そういう精神が流れているはずだ。
「『都鄙問答』には、商人としての根本が書いてあるから、経営者は必読すべし」
と聞いても、私は経営者ではなく、一介のサラリーマンだったから、そこに説かれている「商人道」ということに強い関心を持つ立場でもなかったということもある。
石田梅岩は、数えで11歳のときに京都の商家の丁稚になり、その店の経営が傾いたので、一度郷里の村(現在の京都府亀岡市)に帰ったが、23歳のときにまた京都の別の商家へ働きに出ている。だから、商売については詳しく、単なる思想家が説いた商人道ではないところに重みとリアリティがあり、説得力があるのだ。
幸之助翁も9歳で丁稚から始め、商売には「正直さ」が大事だということを肌身で痛感したからこそ、梅岩が説く「正直と倹約」を中心とする「商人道」に強く共感したのだろう。
松下幸之助翁も、経営に心を求めた。松下電器産業の創る家電製品には、昭和20年代、30年代の日本人の心の琴線に触れるものがあったから、同社は大飛躍できたのだ。
自社だけが儲ければいいという視点ではなく、消費者が喜び、買ったことを感謝する商品を世に送り出す。
ソニーもシャープも、その底には「日本人の商人道」が流れていた
ソニーは、日本人の商魂に西欧人のスピリットを加味して、世界に飛躍した。
井深大・盛田昭夫両創業者から帝王教育を受けて社長になった大賀典雄氏は、東京芸大出でドイツ留学の経験があり、自らジェット機の操縦までしたので、〝こてこての西欧風〟と思われがちだが、私がソニーにいた頃、「心の琴線に触れる商品をつくれ」と指令を出した。
「心の琴線に触れる」という表現は、まさに日本的であり、石田梅岩の商人道に通じるのである。
シャープの創業者早川徳次翁も、シャープペンシルや(ベルトの)バックルを発明するなど西洋感覚の持ち主のように思えるが、義理人情にあつい日本人だった。
「心を知り、本性を知り、心を磨き、人間を磨いてこそ、住みやすく平和な世の中になる」
と考えた石田梅岩は、その教えを広めたい一心で、志のあるものなら誰でも参加できる無料の塾を公開した。
そこに打算や欲得がなかった点が、今でも多くの人に尊敬の念を抱かせるのだ。
京セラの創業者稲盛和夫氏は、30代で経営に悩んでいるときに石田梅岩んび出会い、感銘を受けたといっている。
松下幸之助翁も、経営や仕事に悩んだら『都鄙問答』をよむことだ、と語っていた。
興味を持った人は、ぜひ、一冊!
(現代語訳&解説:城島明彦/致知出版社) ※写真はクリックすると、でっかくなります
(城島明彦)
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