名物喫茶店「さぼうる」で異物混入事件――娘のアイスティーにゴキブリ
保健所が調査報告「ストローを入れるコップの底に成虫と幼虫がいました」
2週間ばかり前の実話である――。
雑誌に連載している「危機管理」の次号のテーマは昨年12月に起きた「ぺヤングにゴキブリ混入事件かな」と考えていたところ、マクドナルドでの異物混入事件多発が表面化、1月7日に謝罪会見を開くという話になったので、急遽、テーマを「マクドナルドの異物混入事件」に変更することにした。
そんな私の目の前で、マクドナルドの謝罪会見を翌日に控えた1月6日、「異物混入事件」が発生した。
それは「ぺヤング」のようなインスタント食品でもなく、「チキンナゲット」のようなファーストフードでもなく、喫茶店での飲み物「アイスティー」に起こった。
事件の一部始終
1月6日の午後2時5分に、私は千代田区の神田神保町(かんだじんぼうちょう)にある昔ながらの喫茶店「さぼうる」(1960年創業の有名店)で、娘と待ち合わせていた。
「さぼうる」は2軒並んでおり、通りから奥の方の1号店である。
先に店に入った私のテーブルには、すでにアメリカン。むろん、ホットだ。
店の天井や床は木材。いまどき、こういう内装の店は珍しい。
雨が降っていて寒い日だったが、15分ほど遅れてやってきた娘は、駆けてきたとみえて、「暑い暑い」といって「アイスティー」を頼んだ。
運ばれてきたアイスティーを前に、娘はストローの包装紙を破って、ストローを取り出すと、細長いコップに突っ込んで、二口、三口と飲んだ後、そのストローを引き出すと、
「なに、これ」
と、小さな悲鳴。
ストローの下から3分の1くらいの位置に、体長1センチくらいの羽の透けた虫がしがみつくようにしていた。
よく見るとチャバネゴキブリだった。
ぺヤングに混入していたのは、でっかいクロゴキブリだが、この種類は小さい。とはいえ、不気味であり、どこを這いずり回ったかわからないし、不潔であることに変わりはない。下手をすれば病原菌がくっついているかもしれない。
動かないところを見ると死んでいるようだ。
ストローを抱くように張りついているところをみると、熱湯を注がれて苦しくなり、へばりついたように思えた。
虫の正体がわかったとたんに、娘は落ち込んだ。
私は、そのストローを右手に、コップを左手に持って、レジまで運び、そこにいた店員に渡して席に戻った。
しばらくすると、店員が新しいレモンティーを運んできたが。娘は口をつけようとしない。
その後、店員がお詫びとして、小皿に入ったアイスクリームを2つ持ってきた。
娘は食べようとしなかったので、
「口直しに食べたほうがいい」
と私が強く勧めたので、食べた。
その後、食事をする予定だったが、とても食べる気にならないというので、その店を出て、別行動を取った。
翌日、千代田区の保健所に電話で通報しておいた。
数日後、保健所から電話があり、2度、検査に入ったと告げ、以下のようなことを私に報告した。
「当日、同店には291人の客があり、うちアイスティーを飲んだのは3名のみでした。店のカウンターの食器戸棚のところにグラスが逆さにして置いてありました。調理台の背後に置いてあるコップにストローがさしてあり、調べたら底にゴキブリの成虫と幼虫が見つかりましたが、それ以外にもポットの可能性も考えられます。
紅茶は茶漉(こ)しに入れ熱湯を注ぎ、ポットに移してからグラスに注ぐそうですから、そのポットにゴキブリが入り込んでいた場合、ポットが洗浄不足でゴキブリが排除されなかったということもありえます。ポットにはフタがあっても、注ぎ口にはフタをつけていないので、そこから侵入する可能性もあるということです。アイスティーの氷は、製氷屋から仕入れた角氷を砕いて使っているそうです」
千代田区の保健所からの報告
「さぼうる」の老社長は、腰を痛めているとのことで、事件当日は店におらず、申し訳ないと詫びていたそうで、こんなこともいっていたという。
「社員にコーヒーをふるまったことがあり、そのとき、ポットからゴキブリが出たことがあります」
社長は正直な人のようだ。
千代田区の保健所員がいうには、
「店では業者に依頼して、煙で落とす殺虫剤は使っているが、ゴキブリホイホイのようなものは使っていないということなので、殺虫剤は継続して行い、ゴキブリホイホイを置いて捕獲できるようにするだけでなく、食べるエサも同時に置くようにと指導しました。それから、ポットの注ぎ口にもフタをつけるように指導しました」
ということだった。
店の表で娘と別れ、そこから遠くない編集プロダクションに顔を出して、ゴキブリ混入の話をすると、その場にいた出版社の元編集部長が
「頭のはげた社長が謝罪に来ましたか」
というので、
「社長ですか」
というと、そうだとのこと。
前述したように、その老社長は、あいにく、店にはいなかったのだ。
マクドナルドに告ぐ「記者の前で、歯とかゴキブリを入れて食べるのが謝罪会見だ」
保険所の人は、電話報告の最後に、
「どうしてほしいですか」
というので、次のように答えた。
「1月7日のマクドナルドの謝罪会見で、ある記者がマクドナルドホールディングスとマクドナルド日本法人の上席執行役員2人にバカな質問をした。
『異物混入があった後でも、あなたは、ご自分のお子さんにチキンナゲットを食べさせられますか』
YESというにきまっているでしょう。そうではなく、こういう質問をすべきだった。
『われわれに目の前で、私が誰かの入れ歯か抜けた歯を入れますから、それをお子さんに食べてもらってください。むろん、あなたがたも一緒に』。
異物が混入した飲食物は、それを口にしたものにしか気持ちや不気味さはわからない。『さぼうる』の社長や店員にも、ゴキブリを入れたレモンティーを飲んでもらってください」
マクドナルドは、何件もの事件が表面化したが、外部機関に調査を依頼し、
「うちの工場や店舗にはないものでした」
などと公表して自社のせいではないと言いつくろっているが、そういうことではないのだ。
謝罪会見でも、記者の質問に答えて、
「出てきた歯は、届け出た人のものだ」
と断言したが、そういわれた女性は、別の日に、
「私の歯でないことを証明してもらっても構わない」
といっている。
マクドナルドは、その女性と白黒つけたらどうか。
それにしても、マクドナルドという企業は、ブランドにあぐらをかき、自社の正当性ばかりを主張しようとする情けない企業だという印象しかない。
もし女性の言っていることが正しかったら、会見で明言した上席執行役員はクビだ!
繰り返すが、異物が混入した飲食物を食べた不気味さ、後味の悪さは、実際にそれを体験した者にしかわからないのだ。
詫びてすむとか、謝罪金を渡せばすむという問題ではないのである。
マクドナルドの経営者らは、もう一度、そのことをよく考える必要がある!
(城島明彦)
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