図書館の前の消毒液クレゾールのにおい
唱歌「冬景色」が似合う季節になってきた
すっかり冬の気配だ。
体調に波があり、具合の悪い日といい日が交錯するのがつらい。
「寄る年波」
という言葉が、繰り返し、頭の奥に浮かんでは消える。
まだまだ老いぼれてはいないと思っていたが、体は正直だ。
執筆に無理がきかなくなった。
集中できる時間が、若いときに比べて短くなっている。
徹夜をしようとすると、効率が極端に悪くない、気がつくと椅子に座った状態で眠っている。
寒くなって目を覚まし、ベッドへ倒れこむと、そのまま眠ってしまう。
情けない限りだが、その代わりとでもいうか、不思議なもので発想力が増した。
脳内に病的な変化が起きているのかもしれないが、原因は何であれ、物書きにとっては大歓迎。
若い頃に蓄えた知識とか企画力の断片が、年をとるにつれて、脳の中で勝手に合体しているようだ。
「若い頃は目的などなくてもいいから、がむしゃらに働け」
「濫読せよ」
などといわれても、若い頃は、その意味がわからなかったが、70に近づいた今は、その意味がよくわかる。
窓の向こうで冬の足音がする。
♪狭霧(さぎり)消ゆる 港江の
舟に白し 朝の露
耳の奥に「冬景色」が聞こえてくる。
小学校の古い木造校舎の、音楽教室に続く暗い廊下の焦げ茶色の床が頭に浮かんでくる。
戦争中、その校舎は兵舎として使われていたという話だった。
図書室の入り口の前に置かれた白い洗面器には、手の消毒用のクレゾールが入っていた。
そのにおいが、ふっと思い出される11月下旬の昼下がり。
(城島明彦)