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2014/11/25

図書館の前の消毒液クレゾールのにおい


唱歌「冬景色」が似合う季節になってきた

 すっかり冬の気配だ。
 体調に波があり、具合の悪い日といい日が交錯するのがつらい。
 「寄る年波」
 という言葉が、繰り返し、頭の奥に浮かんでは消える。

 まだまだ老いぼれてはいないと思っていたが、体は正直だ。
 執筆に無理がきかなくなった。
 集中できる時間が、若いときに比べて短くなっている。

 徹夜をしようとすると、効率が極端に悪くない、気がつくと椅子に座った状態で眠っている。
 寒くなって目を覚まし、ベッドへ倒れこむと、そのまま眠ってしまう。

 情けない限りだが、その代わりとでもいうか、不思議なもので発想力が増した。
 脳内に病的な変化が起きているのかもしれないが、原因は何であれ、物書きにとっては大歓迎。

 若い頃に蓄えた知識とか企画力の断片が、年をとるにつれて、脳の中で勝手に合体しているようだ。

 「若い頃は目的などなくてもいいから、がむしゃらに働け」
 「濫読せよ」
 などといわれても、若い頃は、その意味がわからなかったが、70に近づいた今は、その意味がよくわかる。

 窓の向こうで冬の足音がする。
 
 ♪狭霧(さぎり)消ゆる 港江の
   舟に白し 朝の露 
 
 耳の奥に「冬景色」が聞こえてくる。

 小学校の古い木造校舎の、音楽教室に続く暗い廊下の焦げ茶色の床が頭に浮かんでくる。
 戦争中、その校舎は兵舎として使われていたという話だった。
 図書室の入り口の前に置かれた白い洗面器には、手の消毒用のクレゾールが入っていた。

 そのにおいが、ふっと思い出される11月下旬の昼下がり。

 (城島明彦)

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