「キムタク武蔵」(テレ朝「宮本武蔵」)の二刀流開眼に異義あり!
二刀流開眼は穴戸梅軒との決闘が正しい
「テレ朝開局55周年記念特別スペシャル」と銘打った、キムタク主演の2夜連続大型ドラマ「宮本武蔵」は、「原作吉川英治」だ。
初日(3月15日)だけを見て、あれこれいうのはあまりよくないが、表面的な描き方に終始している感なきにしもあらず。あまり感心できなかったので、書くことにする。
今日の武蔵像をつくったのは、吉川英治の小説「宮本武蔵」である。
武蔵の資料は、彼の著書『五輪書』、武蔵の二刀流を継承した弟子の手になる伝記『二天記』(にてんき)など、きわめて少なく、「お通」とか「朱美」といった人物などは吉川英治の創作だ。
しかし、武蔵という人物が存在したことは間違いなく、13歳から決闘を重ねた回数は60数回にのぼるが、ただの一度も負けたことがないといわれているとんでもない剣豪だったことは確かである。
決闘回数60数回という数字に関しては、すべてが記録されているわけではないので、もっとすくなかったとする見方もある。
武蔵といえば二刀流で知られるが、当初から二刀流だったわけではなく、生きるか死ぬかの真剣勝負をしたときに「二刀流」に開眼している。
原作では、鎖鎌(くさりがま)の使い手・穴戸梅軒(ししど ばいけん)との決闘で、剣に鎖を巻きつけられ、鎌が迫ってくるとき、とっさに腰の小刀を抜いて梅軒の心臓に投げ、刺殺するのである。
その場面は、『二天記』(にてんき)には次のように記されている
「穴戸、鎌を振り出すところを。武蔵短刀を抜き、穴戸が胸を打ち貫き、立ち所に斃(たお)れしを進んで討ち果たす」
武蔵は、自身の流派を「二天一流」と呼んだことから、『二天記』という書名になっている。
鎖鎌というのは鎖の先に分銅をつけ、それをグルグルまわして相手の剣に巻きつけて相手の動きを封じ、ときには、体ごと鎖で巻きつけ、もう片方の手にもった大きな鎌で相手を斬りつけて殺傷するという武具だ。
したがって、剣に鎖を巻きつけられたら、その時点で勝負は決まる。
だが武蔵は、とっさの判断で、腰の小刀を使うことを思いついた。そこが、ただの剣豪と違っている。
穴戸梅軒については、対戦相手は「鎖鎌の名手」である「穴戸」という姓しかわかっておらず、梅軒という名は吉川英治がつけたが、一般には「穴戸梅軒」で通っている。
鎖鎌は、当時流行した武具だったが、その後、衰えた。梅軒が破れたからそういう末路をたどったかどうかは不明だ。
槍の奧蔵院に勝って3年後に二刀流開眼。柳生の高弟と戦うのはその3年後
武蔵が梅軒と戦ったのは、「槍の宝蔵院胤栄(いんえい)」の高弟・奧蔵院と戦って勝った3年後。
21歳のときだ。
穴戸梅軒と戦って二刀流に開眼したのは24歳である。
ドラマでは、穴戸梅軒との決闘を省略し、その3年後の27歳のときの柳生家家臣との戦いで二刀流開眼したように描いていた。
巨匠内田吐夢(うちだ とむ)が監督した中村錦之助主演の映画「宮本武蔵」が、穴戸梅軒との決闘を省略しており、テレ朝は、これにならったのかもしれないが、略してほしくなかった。
武蔵は相手の心理の裏の裏まで読み、あらゆる計算をして相手を倒した
武蔵の二刀流開眼は、後々の彼の戦い方を決める重要な意味合いを持つので、もっときちんと描くべきではなかったか。
武蔵は、一人で多勢を相手にする場合には、大勢に囲まれないような場所を選んだり、相手の心理を読んで仕掛けたり、さまざまな戦略・戦術を駆使した。
ただ剣の腕が立つというだけでなく、敵の心理を読むことにかけても達人だったのだ。
ドラマでの柳生城での戦い方を見ていると、そういう風に戦っているようには見えず、ただバッタバッタと敵を斬り倒しているだけのような演出にしか見えなかった。
独自の描き方はあってもいいが、彼が死ぬ少し前まで筆をとっていた『五輪書』(ごりんのしょ)に書かれているようなことが演出から感じられるようでないと、興味を削ぐ。
松田翔太が演じる「吉岡清十郎」と沢村一樹が演じる「佐々木小次郎」の風体をよく似させているのも、理解に苦しむ。
加えて、吉岡清十郎がなよなよとしたオカマのように気色悪く描かれたのも気持ち悪く、小次郎も同様だ。
内田吐夢の「宮本武蔵」では、高倉健が佐々木小次郎を演じた。小次郎は、沢村一樹のにやけたイメージではなく、ミスキャストではないのか。
佐々木小次郎は「物干し竿」と呼ばれるような長い剣を背負っていたとされることから、長身と推測できるが、武蔵も腕力のすごさなどから180センチはあったと思える。
その両者が激突する巌流島の決闘をどう描くか、関心がある。
(城島明彦)
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