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2013/01/28

NHK大河ドラマ「八重の桜」の視聴率が微妙なのは、なぜ!? ~人気を左右する「10のプラス要素」と「10のマイナス要素」を探る~

「八重の桜」は2月・3月の視聴率が大事

 2013年の「八重の桜」は、ドラマとしては脚本もよく練れているし、演出も悪くないが、視聴率は微妙である。

 「八重の桜」は、通常の放送時間より長くした初回の視聴率こそ21.4%を記録。前年の「平清盛」の17.3%をかなり超えて期待させたが、2回目以後、伸びていない。

 1回目21.4%(平清盛17.3%) 参考:江~姫たちの戦国~21.7%、龍馬伝23.2%、天地人24.7%、篤姫20.3
 2回目18.8%(平清盛17.8%)
 3回目18.1%(平清盛17.2%)
 4回目18.2%(平清盛17.5%)

 初回だけで比較すると、「篤姫」より高い。「篤姫」は2月、3月に入ってから視聴率をあげたから、「八重の桜」もそうなる可能性もなくはないが、いずれにせよ、2月・3月の視聴率が正念場となり、そこで出た数字が前途を暗示することになる。

 前年の大河「平清盛」は、2月に入ると、第1週に16.0%を記録した後、第2週に一気に13.3%にまで下落、そこから低視聴率の道を歩み始めた。つまり、視聴者にソッポを向かれたのだ。


「八重の桜」の視聴率に「プラスに働く10の要因」

 ①主役の綾瀬はるかは、風邪薬ほか複数のCMに出ているので、顔が茶の間に浸透し、知名度が全国的に高い。

 ②綾瀬はるかが出演した連続ドラマ「仁」は高視聴率を記録したが、綾瀬の貢献度大とされ、その演技力も高評価を得ており、女優としての好感度も高い。

 ③笑福亭鶴瓶の番組(「鶴瓶の家族に乾杯」)に綾瀬はるかが2週連続で登場し、会津を訪ねたが、素(ス)の彼女の「気取らない、のほほんとした性格」は好意的に視聴者に映ったはず。

 ④歴史好きな人が見るNHKの番組「ヒストリア」で「白虎隊」を取り上げるなど、NHKは昨年の轍(てつ)を踏まないよう、番組宣伝に相当力を入れた。

 ⑤「龍馬伝」や「平清盛」では気負いすぎた結果、気をてらったような演出をして失敗し、視聴者にソッポを向かれた反省もあり、「八重の桜」の演出は、重厚でオーソドックスな手法にし、反発要素をなくした。

 ⑥会津という江戸から遠い藩を扱ってはいるが、徳川将軍家ときわめて近い藩であり、国政と大きく関わった動きをしていた点も、普通の藩とは違い、興味を引く。

 ⑦日本人で「白虎隊の悲劇」を知らない者はいないといっていいくらい、知名度が高い。

 ⑧「八重」という女性はこれまでテレビドラマの主役として取り上げられたことはなく、素材としてきわめて新鮮である。

 ⑨女子サッカーの「なでしこジャパン」に代表されるように、近年、日本の女子選手の活躍がめざましく、そうした「男まさりのやまとなでしこたち」が脚光を浴びているが、八重はその先駆者の一人であり、時代に受け入れられる要素がある。

 ⑩NHKは「『八重の桜』は視聴率を狙ったものではない。『被災地福島への応援歌』である」と公言し、視聴者にアピールしている。

 以上のような点が視聴率にプラスに働いていると思われるが、プラス要素と考えられた事柄もちょっと視点を変えると一転してマイナス要素に転じるケースも出てくる。
 たとえば、「八重」を主人公にしたドラマや映画がないとう新鮮さは、「知名度が低い」ということになり、関心を呼ばないといった按配である。


「八重の桜」の視聴率に「マイナスに働く10の要因」

 「八重の桜」の視聴率の足を引っ張ると思われる要因は、私の考えるところでは、以下の10である。

 ①新島八重という人物の知名度が低い。

 ②NHKの大河ドラマそのものへの視聴者ばなれが進んでいる。「紅白歌合戦」は長期低落傾向にあった視聴率を上昇させために新しい試みを断行し、一定の成果を収めたが、大河ドラマでは白黒画像の時代と大差のないやり方を続けており、工夫の跡が見られないと視聴者に思われている。

 ③昨年の「平清盛」の演出がひどすぎて、大河ドラマ史上の最低視聴率記録を次々と更新したことで、「大河ドラマ」への失望感が急拡大し、イメージも失墜。視聴者ばなれが加速した。それが尾を引いている。

 ④八重の二度目の夫になる新島襄は同志社大学の創設者だが、早稲田大学の大隈重信や慶應義塾大学の福澤諭吉と比べると知名度の点で劣る。

 ⑤薩長を中心とした「革命派・維新断行勢力」である官軍と、徳川将軍家に近い会津・桑名両藩を中心とする「守旧派・抵抗勢力」の戦いである「戊辰(ぼしん)戦争」での「白虎隊の少年たちの悲劇」は、よく知られてはいるが、彼らも所詮、時代の流れに逆行した「賊軍」。日本そのものが衰退期にある当今、「敗者の美学」は身につまされ、歓迎されにくい時代状況になっている。

 ⑥会津の藩の「白虎隊」の少年や多数の家臣を戦死・自害に追いやった最高責任者は藩主・松平容保(かたもり)にあるが、彼自身は自害もせず、処刑もされず、長生きしたことに対する反感が日本国民にある。

 ⑦「白虎隊の悲劇」は、何度も映画やドラマになったが、いまさらという思いを抱く人も多い。

 ⑧NHKは「福島への応援歌」として「八重の桜」をつくったというが、会津藩は藩士のみならず、市民も含めておびただしい死者を出したことから、その悲惨なイメージはむしろ東日本大震災と重なり、「応援歌」にはならないという皮肉な見方をする人も結構いる。

 ⑨「会津なまり」を忠実に再現しているが、言葉がわからずセリフを理解できない会話がときどきあり、興を削ぐ。

 ⑩八重は新島襄と結婚し、キリスト教の信者となり、洗礼を受けているが、日本人は仏教徒が多く、宗教的な面で反感を抱く視聴者もいる。

 個人的な話になるが、私は、会津藩と最後まで一緒に戦った桑名藩(三重県)があった桑名市で産湯を使った。そこが母の実家で、私の先祖は、三重県の員弁(いなべ)というところに住んでいた郷士だった。
 一方、別れた嫁の母方の先祖は会津藩の足軽だった。
 そんなわけで、わが娘には会津と桑名の血が流れている。
 ということで、「八重の桜」に対する私の思いは複雑である。

 ところで、桑名藩の藩主・松平定敬(さだあき)は、会津藩主松平容保の弟で、京都所司代も務めた。
 つまり、会津藩と桑名藩は親戚。
 だから、最後の最後まで徳川家に忠誠を尽くし、賊軍となったのである。
 当初は兄容保に付き従うが、のちに意見が対立し、一橋慶喜(15代将軍徳川慶喜)と行動をともにする。

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※以上が1月28日に書いたものだが、アクセスが多いので、その後の「八重の桜」の視聴率(関東地区/ビデオリサーチ調べ)を3月24日放送の第8回「ままならぬ思い」まで追記しておきます。(2月25日)

 5回目18.1%(平清盛16.0%)
 6回目15.3%(平清盛13.3%)
 7回目17.5%(平清盛14.4%)
 8回目15.6%(平清盛15.0%) 参考:江~姫たちの戦国~20.9%、龍馬伝22.3%、天地人23.1%、篤姫22.4%
 9回目  ? (平清盛13.4%) 3月3日放送

 「八重の桜」は、演出も重厚で時代劇としてはとてもよくできているが、いかんせん、前年の大河ドラマの悪評がマイナス要素としてかなり影響しているのではないか。

(城島明彦)

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