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2011/01/01

平成綴り方狂室「大中小づくし」

 私は、昭和の御世に「綴り方狂室」で一世を風靡した柳亭痴楽の弟子でも縁者でもございませんで、勝手に「料亭気楽」というまぎらわしい芸名を名乗っておりますが、「料亭」などという名字は日本には存在致しません。

 てぇわけで、いつもばかばかしいお笑いを申し上げておりますが、本日は平成23年の元旦ということもありまして、ちと真面目なお話で、お時間をちょうだいさせていただきます。

 日本語の名字には、大中小のつく名前がいっぱいあって、実に面白いですな。
  大村、中村、小村
 これらの名字から、遠いご先祖様が住んでいた村の規模・大きさが想像されますなあ。
 中村という名字は、奥村、中村、入村(出村、口村)と並べると、家のあった位置かもしれないという見方も出てまいります。

 そこで、誰もが一度は聞いたことのある大中小の名字をピックアップしてみることに致しましょう。
 村から始めましたから、集落の規模で町、郡、市、県、府、都はどうかと考えてみまするてぇと、まず町では、
  大町、中町、小町
 ということになりますな。

 大町、中町という姓は時折見かけますが、小町という名字はめったにございません。大方の人は「小野小町」をとっさに思い浮かべるでしょうが、小町は名字ではありませんな。
 大郡、中郡 小郡
 この場合の郡は「ぐん」ではなく「ごおり」と読むのでございますが、中郡(なかごおり)てぇのは私は存じませんな。

  大市、中市、小市
  大県、中県、小県
  大府(おおぶ)、中府、小府
 大市(おおいち)、大府(おおぶ)という名字の人物を、私は各一名存じておりますが、中小のついた市はこれまでご縁がございません。

  大都、中都、小都
 大都工業という社名は知っておりますけれども、これも名字としては出会ったことがどざいません。
 北海道の「道」はてぇと、
  大道、中道、小道
 ということになりますが、これらの「道」は集落の大きさというよりも、住まっていたあたりの道の大きさをいっているように思われますな。

 こうやって一つ一つ吟味していくと、膨大な時間がかかりますゆえ、村にかかわりのある自然からちょうだいした「名字の大中小」を、まとめてざっと並べてみることに致しましょう。

 ▼木に関係した名字
  大森、中森、小森
  大林、中林、小林
  大木、中木(なかき)、小木(おぎ)
 ▼たんぼに関係した名字
  大田、中田、小田(おだ)
 ▼畑に関係した名字
  大畑、中畑、小畑(おばた)
 ▼川に関係した名字
  大川、中川、小川(おがわ)
 ここまでで、「大中小」にはポピュラーな名字とそうでない名字があるてぇことにお気づきでしょう。
 それと、「小」を「こ」ではなく、「お」と読む名字が結構あるということもわかってまいります。

 おなじ「おがわ」でも「小川」という名字はいっぱいありますが、「小河」ってぇ名字は少ないですな。
 日本人の名字は地形に関係しているといわれておりますから、「小河」のほとりに住んでいた人は少なかったのでありましょう。そういう推理が成り立ってまいります。

 地形というと、山、岡、丘、谷、海という言葉が浮かんでまいります。
  大山、中山、小山
  大岡、中岡、小岡
 二岡、三岡という名字はありますが、小岡というのは私は聞いたことがありませんな。
 不思議なことに、同じ「おか」でも、丘と岡では「岡」を使った名字の方が多いみたいですな。
 それに、「岡」とか「丘」という一字だけの名字もありますが、「山」とか「河」という名字の人はまずお目にかかりません。

 日本は四方を海に囲まれている割には、海を使った名字をあまり見かけません。私など、とっさに浮かんだのは「海江田」だけでございましてな。
 私が少年時代を送った場所の近くに「海山道」(みやまど)と呼ぶ地名がありましたが、こういう名字にはこれまでお目にかかっておりません。「海」は総称ですから少ないのかもしれませんな。

 個々の海の幸を取り入れた名字はありますな。縁起のいい海の幸の代表格は、エビですな。
  海老原、海老沼
 しかしですな、海老は甲殻類で魚ではございません。
 「エビ」には「蝦」という字もありますから、昔の人は魚の仲間ではないと知っていたのでしょうな。
 
 魚でめでたいのは「鯛」ですが、「大鯛」とか「鯛田」といった名字にはなかなかお目にかかりません。「魚住」という名字はありますが、「魚は生臭い」というイメージが名字にするのをためらわせているのでしょうか。
 「平目」という名字は存在しますが、魚から取ったかどうかは不明ですな。魚ヘンに「平」の「ひらめ」ではみっともないので、そう表記したかどうかは不明でございます。

 平目があるなら「カレイ」もあるはずですが、そういう名字はございませんから、「平目」という名字は魚に由来するとは考えられませんな。
 それに、全国的に数の多い「鈴木」という名字が魚のスズキから転じたものであるとは、とうてい思えません。
 海の幸では、「貝谷」「貝原」「貝塚」という名字がございますな。「磯貝」という名字の人も私は知っております。

 自然といえば、樹木や草花が思い浮かびますが、私どもの日々の暮らしに関わる四季折々の果樹や草花に愛着を覚えて、名字にしたい家も当然あるでしょうな。
  桃瀬、栗田、桜木、菊池、梨田、栃井、柏木、梅本、漆畑……。
 そういえば、大桃とか麻木というのもありましたな。

 樹木の個々の名称を名字にした例はいっぱいございますが、「木」とか「草」とか「花」といった総称をつけた名字はありませんな。
 大自然は、美しい色を持っておりますな。それに感動した私たちの祖先は、その色を名字にちょうだいしております。
  白瀬、黒田、赤江、紫村(しむら)、青井……。

 こうやって、あれこれ推理するのは楽しいものでございますな。
 まだまだ話はつきませんが、お時間がきましたようで。これにておしまいでございます。

(城島明彦)
  

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