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2010/09/13

日本振興銀行社長と作家を兼ねた江上剛が残した教訓 「二足の草鞋(わらじ)は不可能」

 日本史上初の「ペイオフ」(預金保護)を発動された日本振興銀行の社長が、ビジネス小説作家江上剛(本名小畠晴喜)であったことは、シャレにならない。
 江上には『失格社員』『社長失格』『背徳経営』『隠蔽指令』『大罪』という著書がある。

 江上は、「保護されない預金者を生み出したかもしれないことは、忸怩(じくじ)たる思いだ」と詫びたが、保護されない一千万を超える預金をしている被害者(預金保険機構によると、9月10日現在の全預金者12万6799人中3423人)たちからは「そんな本を書いているヒマがあったら、なぜもっと経営に力を入れてくれなかったのか」といわれても反論できないだろう。

 日本振興銀行の社外取締役だった江上は、金融庁の検査を妨害した「銀行法違反」による木村剛前会長、西野社長らの経営陣の逮捕で、7月14日に、急遽、社長に就任したという事情はあるが、固辞することはできた。

 江上は、第一勧銀時代、支店長どまりだったから、役員になってみたかったのかもしれないが、現実はそう甘くはなかったのだ。
 「小泉純一郎-竹中平蔵-木村剛」というラインのインチキぶりは、改めて書くまでもないが、江上剛は、その木村に誘われて日本振興銀行の社外取締役を2004年から務め、取締役会議長まで務めてきたが、どこをどうチェックしていたのやら。

 社外取締役の役割というのは、社長や会長の暴走に歯止めをかけたり、コーポレートガバナンス、コンプライアンスなどを厳しくウォッチして、経営陣にアドバイスすることではないのか。
 にもかかわらず、木村剛は、金融庁の立ち入り検査を前に悪事を働くのだから、江上剛の小説よりはるかに面白い。

 報道によれば、日本振興銀行は、昨年5月26日に金融庁から立ち入り検査の通告を受け、「メールを保存するよう」に指示されていた。
 違法な迂回(うかい)投資や大手商工ローンとの違法取引などによる乱脈経営が白日のもとにさらされることを恐れた木村剛は、連日のように会議を開いて対策を協議し、証拠隠滅を図ったというが、社外取締役としての江上は、それ以前の乱脈経営も含めて、どこをどうチェックしていたというのか。
 「二足の草鞋」などと格好をつけて、のんびり小説を書いている場合ではなかったのではないか。

 作家の高杉良は、第一勧銀 (現みずほフィナンシャルグループ)の「総会屋への利益供与事件」(1997年)をテーマにして、経営刷新に取り組んだ4人組をモデルにした小説『金融腐蝕列島・呪縛』を書き、映画化もされたが、当時広報部次長だった江上はその4人組の一人であった。
 それがきっかけとなって江上は、2002年に作家デビューすることになる。
 そういう関係があった髙杉は、今回、江上の社長就任の報に接したとき、「救い難い」とコメントしたそうである。髙杉は、社外取締役にも就くなと過去に何度もアドバイスしていたという。
 江上は、髙杉が案じたように、社長就任からわずか2か月で日本振興銀行は破綻に追い込まれた。

 木村と江上には共通点がいくつかある。
 どちらも銀行出身で、名前が同じ「剛」。〝赤信号GO-Goライン〟というわけだ。
 木村も日銀時代から「織坂濠」というペンネームで本を出し、退社後は山のように本を書いてきたが、これがまた、江上同様、シャレにならない。
 『粉飾答弁』『小説ペイオフ――通貨が堕落するとき』
 世の中を甘く見ているとしかいいようがない。
 田原総一朗との共著『退場勧告――居直り続ける経営者たちへ』、スポーツ評論家二宮清純との共著『野球と銀行――なぜ日本は失敗したか』というのもある。

 〝阪神電鉄買い占め事件〟や〝インサイダー取引〟(ライブドアがニッポン放送を買い占めるという情報をホリエモンこと堀江貴文から入手して193万株を買った)容疑で逮捕された〝村上ファンド〟の村上世彰(よしあき)も、日本振興銀行が発足したときには、主要株主の一人として名前を連ねていた。
 ベンチャー企業の成功者としてマスコミが好んで取り上げたGMOインターナショナルの社長熊谷正寿も、日本振興銀行の株主であった。

 日本経済を引っかきまわした竹中―木村―村上という〝悪の連携図〟の共通項は、「弁が立つ=詭弁家(きべんか)」で「相手を言いくるめたら勝ち」という考え方をしていることだろう。
 彼らを取り上げてゼニ儲けをしたテレビや出版社などのマスコミの罪も大きい。マスコミは、〝マッチポンプ〟だ。自分で火をつけ、自分で消す。竹中や木村や村上を、ホリエモンにしてもそうだが、ヒーロー扱いして、もてはやしておきながら、彼らの正体が明らかになると、今度は手のひらを返したように、バッシングの嵐である。

 世の中には「二足の草鞋」をカッコいいともてはやす風潮があるが、よほどのスーパーマンか天才でない限り、どんな仕事でもトコトンやろうとすると、それだけで精一杯であり、ほかのことに手をそめている余力などない。

(城島明彦) 
 

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