マンネリ・やらせばかりが目についたフジテレビ系の「ほん怖(こわ)」こと「ほんとにあった怖い話 夏の特別編2010~AKB48 まるごと浄霊スペシャル~」
怪奇小説を書いている職業柄、この手の話に興味があり、8月24日のゴールデンタイム枠で放映された「ほんとにあった怖い話」(フジテレビ)を期待して見たが、羊頭狗肉で落胆した。
近年、「本当にあった怖い話」が中高生をはじめとする若者たちに人気があるが、この番組は「本当にあった?怖い話」とでもすべき内容であって、タイトルと一致していなかった。
実体験に基づくドラマという怖い話5編と、人気のAKB48メンバー2人を、霊能者の下(しも)ヨシ子が「浄霊」する様子を収録したもので構成される番組で、同局恒例の納涼番組であるが、ドラマは嘘っぽく、浄霊と称するものは「わざとらしさ」と「やらせ」の感がぬぐえない低レベルの低い内容だった。
下ヨシ子の「浄霊」は、読経や雰囲気でタレントを催眠状態に陥らせ、催眠のかかり具合が悪いと接近したり、体に触れたりして、かかり具合をよくしておいて、悪霊を体から追い出すという、いいかげんなもの。
AKB48の女の子に対し、「4月8日に自殺した女の霊がついている」といい、その子が「その日は私の誕生日です」と驚く。その時点で、「やらせ」がバレバレ。番組制作をしたTV局のスタッフとの事前の打ち合わせ段階で、誕生日の情報を知らされていたとしか思えず、笑止である。
霊の存在を信じる人、幽霊を目撃したり怪奇現象が見えるという人、催眠術にかかりやすい人などは、「霊が取り憑いている」といわれると、その気になるものである。そういう人間を選んで番組を作っている。
霊能者として、取り憑いている人間の死んだ日まで特定できる透視能力があるのなら、その人間のプライバシーを侵害しない範囲で、どこの誰なのか、どういう家族構成で、実際に実在していたというところまで明確にし、証拠となるものを提示できるはずではないのか。
5編の怖い話は、ドラマを見ると、「怖く感じるように、それらしく話をつくってある」ことがわかってしまう。実在の人物の実体験に基づくとわざわざ断っているが、もしそうであるなら、ごく短くてもよいから、体験者の写真なりコメントなりインタビューなり住所氏名を明らかにして、真実味を出す工夫が必要だ。
放映された怖い話は、5つ。
○「開かずの間」(坂口憲二主演)……お寺の「開かずの間」の封印を解いた話。
○「叫ぶ廃病院」(池端淳平主演)……廃病院に肝だめしにいった男女3人組の帰りの車の中に院内に放置されていた位牌があり、それを川に投げたら、そこから幽霊が出てきたという話。
○「赤いイヤリングの怪」(AKB48の大島優子主演)……自殺者が身につけていたイヤリングを拾った女子高生の家に死んだ女が現れる話。
○「レインコートの女」(AKB48の高橋みなみ主演)……スタジオか倉庫のようなところで、友人とかくれんぼをしていて「レインコートを着た女」を目撃するが、それが警備用のビデオにも映っていたという話。
○「死神が来る夜」(優香主演)……老人ホームで介護の仕事をしている女性が、仕事帰りに車を運転していて睡魔に襲われ、事故を起こすが、ホームでやさしくしてやっていた老女がお礼にくれたお守りのおかげで奇跡的に助かり、その老女はまるで身代わりのように死んでいったという話。
最も真実味があり、実話かもしれないと思えるのは最後の話だけで、それ以外は明らかに作り話と思えるストーリーになってい る。
「開かずの間」も、お札がたくさん貼ってある隣室との襖(ふすま)の下から、長い髪の毛が出ているのを、その寺を訪ねた主人公らが最初に見るという設定は、ありえない。お寺の住職が、そんな状態のまま放置しておくとは思えない。客の目に触れないようするのが普通だ。
「叫ぶ廃病院」は、病院内に壊れた小さい仏壇が落ちていたという設定は面白いが、位牌を拾って持ち帰ってもないのに車のなかにあったという話は、100%ありえない。そう思った時点で、「これは完全な作り話だ」ということになる。「本当にあった」とするから、話をもっと面白くできないのだ。その点、同じフジテレビ製作のタモリの「世にも奇妙な物語」の方がフィクションに徹した分だけ、面白い。
「赤いイヤリングの怪」は、「何度捨ててもイヤリングが戻ってくる」と登場人物に語らせている設定自体に無理がある。誰かが同じものをいくつも用意していて投げ込んでいくのならわかるが、イヤリングに足でも生えない限り、そういうことはありえない。その時点で、しらける。拾った子の家に泊まる友人が、天窓に顔が血だらけの女が落ちてくるのを目撃するシーンがあるが、視聴者の恐怖をあおるために何度も落ちてくる演出になっているのが、いかにもあざとく嘘っぽい演出と思え、興ざめだった。
「レインコートの女」は、主人公が目撃したレインコート姿の女の幽霊がビデオにもはっきり映っていて、その姿が途中でふっと掻き消えるという話になっているが、実際にそういう映像を映したビデオがあり、それをテレビ局が何かの番組の中で流したことは、過去に一度もない。過去にテレビで紹介されたのは、何か怪しいものが一瞬チラッと画面に映ったという程度の画像か、奇妙な物音が聞こえたというレベルである。「高橋みなみの実体験をドラマ化した」と謳っているが、「本当にあった話」と銘打つのは無理があるということだ。
「死神が来る夜」が、こういう話はよく聞くし、本当にあった話と思わせるものがある。しかし、身代わりになって死んでいったと思える老女は、わがままで、別のナース(介護士?)の女性を徹底的に毛嫌いし、彼女が運んできた食事をひっくり返す嫌がらせばかりしているという設定は、優香扮するナースの優しさを強調するためのエピソードかもしれないが、見ていてイヤな印象が残った。なぜなら、嫌われるナースには悪気があるわけでも、口のきき方がぞんざいでもなく、ただ相性が合わないだけではないのかと思わせたからだ。そのあたりの人間描写をきちんとした方がドラマに味が出る。
小説とか架空のドラマなら嘘八百が許されるが、「本当にあった話」と謳(うた)うというからには、嘘っぽかったり、作り話のように感じられるようではいけない。番組名を変えるべきだろう。
理屈で説明できないから「怖い」と感じるのかもしれないが、ある程度、「この話は、本当にあったのかもしれない」と視聴者に思わせないとダメだ。そう考えた視聴者が多かったのではないか。
(城島明彦)
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