新型インフルを「政争の具」にした民主党と〝喜んで利用された〟女性検疫官
私には、厄介な持病がある。若い時分からのもので、睡眠不足のときや疲労してくると背中の筋肉がこわばって痛くなり、仕事ができなくなる。それで、しばしばベッドに横になって休息する。
5月28日も、執筆中に痛みがひどくなったので休憩することにし、テレビをつけてベッドにひっくり返った。
ちょうど参議院の予算委員会での質疑応答をNHKが中継中で、眼鏡をかけた中年女性が質問に立ち、勇ましい口調で厚労省を批判していた。舛添厚生大臣は、答弁側にいた。
見かけない国会議員だと思っていたら、意外や意外、厚労省の職員だった。正確にいうと、四十代半ばの技官(医系技官。羽田空港検疫官)である。
この人物を参考人として呼んだのは、民主党の鈴木寛だと知って、「なるほど」と得心した。
この技官、「日本には新型感染症に対する防御機能がない」「日本の感染症対策はゼロ」というのが持論の「反体制派」で、新型インフルに対する政府のやり方について不満たらたらの〝不平分子〟である。
それだけなら、どうということはないのだが、この女性技官、新型インフルで世界中がパニックに陥りつつあった3月下旬に、タイミングを見計らったかのように講談社から『厚生労働省崩壊』という反体制本を実名で出版していた。
「天然痘テロ対策」などがテーマで、新型インフルに言及したものではないが、きわもの的な印象はまぬがれない。
こういう本には必ず仕掛人がいる。
もし彼女が正義感から持論を展開しているのなら、選挙も近い時期にこうしたきわどい本を出すべきではない。「便乗商法」と受け取られてしまう。どんなに正論と思える主張を吐いても、痛くもない腹も探られることになる。
それ以前に、もっと大きな問題がある。
サラリーマンが本を出す場合は、会社の許可がいる。会社を批判するような暴露本は、無論、許可されない。たとえば、トヨタの社員が、『トヨタ崩壊』という本を書いたら、どうなる!? 株価に影響するどころの騒ぎではないはずだが、そうなる前に会社が許可しない。
それでも強行に出版した場合は、それ相応の譴責(けんせき)処分が待っている。
その技官は、そういうことを覚悟の上で出版したのか!?
官庁も同じだろう。しかし、3月に本が出て、はや6月になるが、まだ技官を辞めてはいない。それどころか、正々堂々、今度は、国会で民社党の走狗(そうく)となっての参考人発言である。
一体全体、何を考えているのか。
これから先を民社党から約束ないしは保証されてでもいるのではないのか。そう勘ぐられても仕方あるまい。
その技官が、まだぬくぬくと仕事を続けているところを見ると、厚労省というところは、よほど鷹揚(おおような)な職場なのなのだろう。
あるいは、厚労省が激震するような〝隠しダマ〟でも持っていて、うっかり処分できないのか。
自民党政治のひどさは今更あげつらうまでもないが、民主党も昔の社会党と似たりよったりで、「何でも反対路線」が見え隠れし、民社党が政権を取ったら、こういう女性技官のようなタイプを厚労省のトップにすえることになるのかと考えると、ぞっとする。
「政府のやり方がお粗末」であるとする女性技官の予算委員会での発言内容は、新聞やテレビニュースでも報道されていたから知っている人がたくさんいるだろうが、改めて書くと、こういうことをいった。
「マスクやガウンをつけ、検疫官が飛び回る姿は、パフォーマンス的な共感を呼ぶので、利用されたのではないか、と疑っている」
厚労大臣の舛添は〝テレビの力・使い方を熟知しきったタレント〟のようなもの。加えて、衆議院議員選挙も近いことから、当然、パフォーマンスという項目も視野にあって当然である。
こんなわかりきった低次元のことを、テレビ中継されている場面で、一技官が、したり顔でわざわざいう必要などない。
パフォーマンスというなら、厚労省の一職員が国会の場で参考人発言をすること自体、パフォーマンス以外の何者でもないではないか。
こういうのを「身勝手」という。テレビ中継されるからといって、「目くそ鼻くそを笑う」たぐいの茶番的なことをやってどうする。
民主党の〝反自民パフォーマンス〟の一環として完璧に利用されたのは明らか。
もし彼女が、技官として心底から、今回の新型インフルの防御策に危機感を募らせているのなら、論文とまではいわないまでも、緊急レポートの1本でも書いて、なぜWHOに直接働きかけないのか。
選挙前に、自民党の厚労政策を公然と批判するような本を出す暇があるなら、医者として、公僕として、世界のため、日本のために身を粉にして尽くせ!
公務員として、一方で、ぬくぬくと給料をもらいながら、給料をくれているところを公然と批判する本を出したり、テレビで発言するなど、もってのほか。
文句があるなら、本を出したいなら、評論家になりたいなら、厚労省をやめてフリーになってからやれ。
成田空港勤務ではなく、羽田空港勤務なので、のんびりと他人事のようなこともいっていられたのだろう、という皮肉な受け止め方もされてしまう。
自民党も民主党も、そして、この厚労省職員も、みんな同じ穴のムジナだ。
新型インフルは、これから進化しないと誰が言い切れる?
メキシコ以外では、結果的に死者が少なかったからといって、安心するのはまだ早い。これだけのスピードで、世界中に飛び火する勢いを見ただけで、普通の神経の人は恐怖を感じているのだ。
今年の冬から来年春までに、なにが起こるか、誰も予想できない。
厚生労働省崩壊などとご高説を垂れる前に、医者であり技官である公僕としての自身の務めを果たせ!
(城島明彦)
