ものを知らない編集者の増殖を嘆く
「何枚で書けばいいのか」
と尋ねると、怪訝な顔をする〝ものを知らない編集者〟が近年増殖傾向にある。
かれらは「枚数」ではなく、「字数」でいうのが当たり前、と錯覚しているようで、
「5万字」
と答え、なぜ枚数でいうのか、と不審そうな顔をする。
ビジネス文書の延長で、小説や随筆の原稿を考えているらしい。
400字とか1000字といったような少ない枚数ならわからなくもないが、何万字、何十万字などという言い方を平気でする神経はまともではない、としかいいようがない。
「枚数と字数の両方をいう」のならわかるが、「小説を字数だけでカウントする」のはおかしい。
「1000字小説」などと銘打っているようなケースは例外。
原稿用紙の基本は「20字×20行=400字」の400字詰め原稿用紙。(映画の場合は、200字詰めが基本)
原稿用紙は、元来、枚数で数えるもの。原稿の数え方は、「一枚、二枚……」だ。
「3万字でお願いします」といわれたら、作家は面食らう。
頭のなかで、割り算をすることになる。
(3万÷400=75枚か)
二度手間(にどでま)になる。
枚数でいわれると、どれくらいの長さのものを書けばいいのか即座にわかるが、10万字だの30万字だのという大きな数字を口にされても、ピンとこない。
いきなり大きな字数を口にする編集者は、そのあたりの基本的なことが抜けているということになる。
字数計算を軽んじていいというのではない。
雑誌や本を編集するときのことを考えて、いきなり字数をいうのかもしれないが、そういう計算は、自分たちがやればいいのであって、原稿を依頼した相手に、そういう言い方はすべきではない。
原稿をパソコンで書き、原稿用紙のマス目が必要なくなった時代であっても、編集者は、そういった基本的なことをわきまえていないといけない。
私がワープロを初めて使ったのは、今から25年も前だ。現在はパソコンのワード原稿で書いているが、1ページ400字で書くと、スカスカになるし、全体を眺めづらいことから、「一ページにつき、40字×40行=400字詰め原稿用紙にすると4枚」で書いている。
たとえば、5ページめの原稿を書いているとすると、その数字に4を掛けたらいいわけで、
「今、20枚だな。あと残り4枚か。そろそろ、結末に入らないといけないな」
と計算できる。
広告業界では、デザインやレイアウトを重視するために、早い時期から「何字」といってきたが、それはそれ。
新聞や雑誌のように、一行の字数が決まっている場合、その字数を告げて「何枚でお願いします」という言い方はある。
そうしたことをわきまえた上で、字数をいうのならいいが、そういうことすら知らず、大きな字数をいきなり口にするのは、まともな編集者ではない。
邪道がまかり通り、それをおかしいと思わない神経の者が増殖しているのは、嘆かわしいことだ。
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(城島明彦)