「CMソングの神様」がいた
今の若い人は三木鶏郎(みき とりろう)という人のことを知らないでしょうが、彼は「CMソングの神様」でした。
団塊世代は、少年時代や青年時代に一人の例外もなく、彼の作ったCMソングの洗礼を受けています。
彼が生涯に作ったCMソングは、数千曲はあると思われます。
次のCMソングは、全部、三木鶏郎が作ったものです。団塊世代の読者は、そのほとんどを知っているのではないでしょうか。
「ワ、ワ、ワ、ワが三つ。ミツワ石鹸」
「明るいナショナル、明るいナショナル、ラジオ、テレビ、なんでもナショナル」
「ジンジン仁丹、ジンタカタッタッター」
「くしゃみ三回、ルル三錠」
「カーン、カーン、カネボウ」
「丸金自転車、ホイのホイのホイ」
「グリコ、グリコ、グリコアーモンドチョコレート」
昨今のCMは、有名俳優やタレントを使ったり、映像的に凝ったものが多く、CMソングも売れている歌手の曲を用いる傾向が強くなっています。
それはそれなりに視聴者を楽しませますが、CMはがんがん流されても、どこの企業のCMであったのか、印象に残らないものが増えています。作り手が、「CM本来の役割を忘れている」から、そうなるのです。
三木鶏郎のつくるCMソングは、そうしたCMとは対極にありました。
彼のつくるCMは、企業名や商品名最重視で、詞がきわめてシンプルかつムダがなく、曲はとても明るくて温かみがあり、子供、大人を問わず、誰にも親しみやすく明るいメロディーでした。しかも、どの曲もしゃれていました。
CMソングに対する彼の考え方が一番よく現れた最高傑作は、「キリンレモン」のCMソングです。
歌詞は「キリン」「キリンレモン」という言葉だけのくりかえしで、最後に「うちじゅうでみんなキリンレモン」で締めくくっています。
日本の三大CMクリエイター(作詞作曲家)をあげるなら、ダントツの一位が三木鶏郎で、二位が浜口庫之助、三位が小林亜星ということになるのではないでしょうか。
三木鶏郎は、〝やめ検〟(元検事)の弁護士を父に持つ裕福な家庭で育ち、東大法学部を卒業した秀才でした。
彼は音大にこそ行っていませんが、子供の頃から音楽に関心を持ち、個人的に先生について学んでいます。
戦後、ジャズの楽団を組んで、自らも演奏していたことから、彼は好んでスィングジャズを取り入れました。
歌謡曲も作りました。団塊世代が子供の頃、聞いたことがある宮城マリ子の「毒消しゃいらんかね」や中村メイコの「田舎のバス」(田舎のバスは おんぼろ車 ガタゴト道を ガタゴト走る……という歌詞)がそうでした。
彼は、「冗談音楽」を日本で手がけたにとどまらず、テレビアニメの主題歌も作っています。
ビルの街に ガォー
夜のハイウェイに ガォー
タタタタタンと 弾(たま)が来る
パパパパパンと 破裂する
ヒューンと飛んでく 鉄人28号
「鉄人28号」の主題歌ほかにも、「遊星王子」「ジャングル大帝の歌」も三木鶏郎が作ったのです。
(城島明彦)