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2007/09/20

「目線」は、いつから一般用語になったのか

 「目線」
 という言葉は、今日頻繁に使われており、NHKのアナウンサーまでニュースのなかで使用しているが、少なくとも1980年代前半までは、映画やテレビの世界だけで使われる特殊な業界用語であった。

 「目線、ください」
 「目線、お願いします」
 などと撮影現場で俳優にいって、カメラの横に台本や拳固をさしだすなどして、そこを見つめるようにと指示したのである。

 そういう使い方をされていたので、女優の高橋洋子が「雨が好き」という短編小説で「中央公論新人賞」を受賞した際、「目線」という言葉を使ったことに選考委員の一人が、注意を促した。

 彼は、選評のなかで、こんなことをいっていた。

 「目線という言葉を使ってはいけない。そういう日本語はない。視線という正しい言葉を使いなさい」

 高橋洋子は、文学座付属の演劇研究所の出身で、1972年に斎藤耕一監督の「旅の重さ」に主演デビューし、74年に「サンダカン8番娼館」で「からゆきさん」(娼婦のこと)を熱演し演技力を認められたが、文才があり、新人賞に応募したのだった。

 彼女は、映画の撮影現場で日常使われている「目線」を普通の言葉として認識し、小説のなかで使ったのだ。

 僕は、1970年から73年まで東宝で映画の助監督をしていたので、彼女が1981年に新人賞を取ったと知って、「俺も負けていられない」と思ったものだった。

 僕が「オール読物新人賞」を受賞するのは、その2年後である。

 「目線」の話であった。

 業界用語だった「目線」が一般用語になった理由は簡単である。

 タレント、特にお笑い系タレントがテレビ番組の中で盛んに使ったからだ。

 業界用語というのは、「隠語」(いんご)である。

 隠語は、その世界の仲間うちだけでしか通用しない特殊な言葉なので、公の場では使わないのが常識だが、お笑い系タレントは、楽屋話をしている感覚で話をする。

 テレビの力は恐ろしい。「フリップ」という業界用語も、いつのまにか一般用語化してしまった。

 今、流されているドコモのテレビのCMでは、若い女優が「何気に」という言葉を使っている。

 ドラマ仕立てで、劇中で「はやり言葉」を使っているという想定であろうが、CMが小さな子供に及ぼす影響は大きいものがある。

 正しくない日本語、美しくない日本語を頻繁に流れるCMで使うのは、問題が多い。

(城島明彦)

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